前回、「国民が社会保障・税一体改革を受け入れるためには、財源捻出のための行財政改革と並んで、(財源はそれほど出ないものの)国民からの信頼を勝ち得るような行財政改革をする必要がある。その際のキーワードは、既得権益への優遇をなくすことである」という内容のことを書いた。

 今回はその1回目として、わが国最強の圧力団体で既得権益を持つ医師会と、社会保険診療報酬優遇税制の話である。

医師優遇税制の中身

 わが国の税制は、医療機関に対して、社会保険診療報酬の所得計算に大きな税制優遇(いわゆる「医師優遇税制」)を与えている。医療機関については、事業税にも優遇措置が与えられている。

 医師や歯科医師で、社会保険診療報酬が5000万円以下の場合、その所得税の計算に当たって、必要経費の額を、実際に使った必要経費に代えて、概算経費の額とすることができる。

 たとえば診療報酬が2500万円以下の場合には、実額の経費が50%しかかからなくても、72%の概算経費の控除を受けることができる。そしてこのような概算経費の優遇税制は、概算経費率を縮小しながら、5000万円の診療報酬まで続くのである。

 大きな問題は、実際の経費をもとに納税することも可能だという点にある。診療報酬から実際にかかった経費を差し引いた額が、概算控除で計算した場合より少ない(つまり課税所得が少ない)場合には、「少ない方で計算できる」のである。

 この制度が昭和29(1954)年に暫定制度として導入された時の理由は、「小規模な開業医や医療法人は、納税事務が多いと医療業務に支障が生じる」というものであったが、今やコンピューターの発達の下で、本来の趣旨を離れた単なる優遇制度となっている。