肉、魚、野菜などの生鮮食品から、インスタントコーヒーやシリアルなどの加工食品まで、スーパーに行けば世界中の食品が1年中いつでも手頃な値段で手に入る。しかし、われわれは、そのスーパーの棚の裏側で起きていることに対して、あまりに無知で無関心だ。グローバル化された食経済と、それを支える巨大なサプライチェーンの裏側で今、何が起きているのか。世界の食システムが直面しようとしている危機の本質を読み解く。

10億人が飢えに苦しみ10億人が肥満に悩む今日の世界

 現在のアメリカは肥満大国のイメージが完全に定着しつつある。実際、アメリカでは肥満率(BMIが25以上の人口比)が6割を超えている(日本は22%)。そして、これは当然深刻な健康問題をもたらす。

 アメリカ疾病管理予防センター(CDC)によると、2005年の段階で肥満による合併症とそれに関する糖尿病や心臓病などの疾患が原因で早死にする人の数はアメリカ国内だけで毎年12万2000人にのぼり、750億ドルもの余分な医療費を生んでいるという。さらには子どもたちの肥満率も上昇し続け、なおかつ毎年低年齢化しつつあるという。

 しかも肥満は低所得層の方が圧倒的に多い。ファストフードやジャンクフードに代表される安価な食品に高カロリーな食品が圧倒的に多いからだ。

 この現象は何もアメリカに限ったことではない。全世界ではおよそ10億人がカロリーの過剰摂取状態にあり、今やほとんどの先進国で肥満は深刻な医療問題になりつつある。

 そして、これは医療問題であると同時に、社会の格差が色濃く反映される社会問題でもあり、医療費や社会保障費の高騰という経済問題、ひいてはその財政負担をどう賄うかという政治問題にまで発展している。

アフリカの飢餓は決して遠い世界のことではない

 しかし、その一方で、世界にはほぼそれと同じくらいの数の人間が、貧困により1日1ドル以下の生活や1日1食にありつけない極貧状態に置かれていることも忘れてはならない。

 ケニアでは人口の1割を超える400万人が、今も飢えに苦しんでいるし、最近では、昨年ソマリアが深刻な飢饉に襲われ、数万人が死亡したことが報じられている。

 サハラ以南のアフリカでは毎年1000万人以上が栄養失調のために死亡しているが、これは必ずしも紛争や気候だけの影響ではない。先進国やIMF・世銀などの国際金融機関が深く関与するこれらの国の農業や食料管理体制の崩壊も、こうした飢饉や飢餓の大きな原因の一つとなっている。その意味で、アフリカの飢餓は決して遠い世界のことでは済まされないのだ。