今、世界の食システムに何が起きているかを見極める目を

 先進国内に貧富の格差が生まれ、特に貧困層が安価なファストフードやジャンクフードによる健康障害に悩まされている。しかし、その一方で、先進国全体の肥満者数とほぼ同じ数の人間が毎年飢えに苦しんでいる。どう見てもこのような状態は、ノーマルではない。今日の世界の食システムに何か根本的な問題があるにちがいない。

 その問いを解き明かそうと試みているのが、日本でこの3月に刊行されたポール・ロバーツの『食の終焉』だ。

 著者は世界の食システムが今や崩壊の淵にあると警鐘を鳴らす。20世紀後半に始まったグローバル化の波は食システムをも飲み込み、極度に効率化されたグローバルな「食システム」を誕生させた。しかし、元来、人間が生きるための基本的な営みでもある食は、飽くなき効率を求める経済原理には馴染まない。その矛盾が今、いたるところで吹き出していると著者は言う。

「地域最安値!」のポップが立つ食品の裏側

 過度の規制緩和や自由化によって、世界の食システムは、貿易、生産、流通、小売りのそれぞれの階層で、一握りの大資本によって支配されるようになった。中でも、地域の胃袋を掴んだ大手小売業者の力は絶対だ。

 食品メーカーは大手小売のニーズに答えるために、より安い商品を世界中から探すようになる。大口の取引先である食品メーカーの注文に応えるべく、商品供給業者は人件費や土地利用料が安く、農薬などの栽培法についての規制の少ない途上国を探す。

 途上国は先進国への販路を確保し、貿易収支黒字化による経済成長を求め、大規模農場を作り、一つの作物に生産を集中させるモノカルチャー化を進め、劣悪な環境の下で大量の労働者を低賃金で働かせる。

 こうして生産者が多大な犠牲を払って作った農作物は食品供給業者に徹底的に買い叩かれ、それを食品メーカーが加工し、最終的に店頭に「地域最安値!」というポップとともに売り出されるというわけだ。

 かくして、1年中いつでも安く簡単に手に入るその食品のおかげで、先進国に住むわれわれは偏った高カロリーの食品を過剰に摂取することを促され、結果的に肥満や成人病に悩まされることになる。