FRBのパウエル議長とトランプ大統領Photo:REUTERS/アフロ

『週刊ダイヤモンド』3月2日号の第1特集は「今が全部ヤバい理由」です。地球規模の影響力を手に入れた超国家企業、魔力を失った市場の守り神、エゴむき出しの国家――。リーマンショックから10年が過ぎた今、これらが三位一体となり「次の危機」への扉を開きかねないリスクが、マグマのようにたまり続けています。新たな手段を次々に生み出しては危機を救ってきた“魔法使い”の中央銀行ですが、ここにきてその神通力に陰りが出ており、今や次の打ち手は限られています。(本記事は特集からの抜粋です)

 中世の時代、ありふれた材料から希少な金や銀の精錬を試みる錬金術師という存在がいた。人類は長年、黄金をつくることができると真剣に信じていたのだ。だが、近代科学の発達につれ実現の難しさが明らかとなり、次第に信仰の“メッキ”が剥げていった。

 それでもなお、魔法使いのように見られてきたものがあった。その名は「中央銀行」。各国の銀行券(おカネ)を発行するとともに、「最後の貸し手」として銀行に資金を貸し出す役目を持つ。

 中銀は約350年前の1668年、スウェーデンのリクスバンクが設立されたのに端を発し、金融市場では創造主のようにも見なされてきた。何しろ、紙幣を刷ることでおカネを生み出せる立場にあり、「無から富を生み出すのに必要なのは、紙と輪転機と中央銀行、それに国家権力のお墨付きだけだった」(『マネーの支配者』〈ニール・アーウィン著〉)からだ。

 そんな中銀は次第に景気を操舵する術を身に付け、歴史上で多様な政策手法を編み出してきた。代表的な役割として、景気や物価の過熱や低迷を防ぐために金利を動かし、世の中のおカネの量を調整することがある。その際の「政策金利」は、住宅ローンや預金金利など多様な金利の指標となる。

 金利を下げれば企業や個人がおカネを借りやすくなり、景気を後押しする効果がある一方、インフレやバブルの原因にもなりかねず、状況判断と適切な対応が中銀の腕の見せどころとなる。このように、金利を動かす手法は「伝統的」な金融政策と呼ばれる。