年金不足の突破口、フィンテックで実現する「新しい働き方」とは深刻な人手不足を背景に、日本でも多様な働き方やライフスタイルが生まれている。フィンテックで「新しい働き方」も生まれつつある(写真はイメージです) Photo:PIXTA

評価されるべき「老後資金2000万円」問題
年金不足の解決策は資産形成だけではない

 2019年をここまで振り返ると、「老後の30年で約2000万円の資金が必要になる」という一文は、日本のお茶の間やメディアを賑わせたインパクトを考えれば、流行語番付の横綱級といえる。この一文の出所である、「高齢社会における資産形成・管理」(金融庁金融審議会市場ワーキング・グループ報告書)が、お蔵入りとなってしまったことは悔やまれる。

 しかし、減点主義の霞ヶ関ではいざ知らず、この一文は、日本国民に老後の資産形成やお金のやりくりについて真面目に考えるきっかけを与えた。「つかみが全て」の某業界でなくても、この報告書に関わった関係者には、「社長賞」が贈られてもいいだろう。また霞ヶ関に関わる人々にとっても、この一文は金融庁の目指す「国民の安定的な資産形成」の啓発に大いにつながったのだから、やはり評価されるべきだ。

 そもそも老後の資金を年金だけに頼れなくなった大きな理由は、平均寿命が延びたからである。したがって、60歳定年制にこだわってはいられない。私たちは健康なおじいさん、おばあさんになる(なった)のだ。70歳、あるいはそれ以降も「働かなくてはいけない」のではなく「働ける」のである。年金不足は、金融庁が提唱するように資産形成で補うだけでなく、厚生労働省が提唱するように雇用延長や働き方改革で解決しようとしてもよい。

 人口減少・高齢化の進展や労働人口の縮小を背景に、日本では人手不足が深刻である。日本の経産省幹部は、他国の役人から「日本には失業問題がなくて羨ましい」と言われたそうである。どこの国でも雇用問題は最重要課題であるはずなのに、日本では先の参院選挙でも、「雇用問題」を選挙公約に掲げた政党がほとんどなかった。経済政策としての大きなテーマは「最低賃金の引き上げ」であったことからもわかる通り、失業問題よりもすでに雇用されている人の待遇改善が中心課題となっている。

 今の政治が取り組む現役世代向けの働き方改革や最低賃金の引き上げなどは、多様な働き方やライフスタイルを生み出し、その結果として高齢者の就労機会や待遇を豊かなものにすることにつながるはずだ。そしてその結果として、福祉や年金の問題を部分的にせよ緩和する可能性があるとしたら、一石二鳥どころではない。