新規事業に熱心な大企業
取り組む姿勢に疑問も
ベンチャー企業は、ゼロから事業を立ち上げることが多いので、新規事業に取り組むことは、人間が空気を吸うようなものである。そして、ベンチャー企業で働く人間は、毎日のように新しいビジネスの種を探し、商品・サービスをつくって売って試してみるのが日常となる。一方大企業では、経営資源が既存の事業に投入され、それなりの成果・結果を上げているため、新たに別の事業を立ち上げるのが結構大変だ。
それにもかかわらず、私が知る大手企業の多くは、新規事業に何らかの形で取り組んでいる。そして大企業で働く方々は、新規事業に関する情報収集に余念がない。たとえば私は、自分自身がフィンテックを軸に新しい事業領域に関わることが多いためか、新規事業に取り組む大企業の方々から多くの相談を受ける。彼らが属する業界は、製造業、サービス業など多岐にわたる。
また私は、昨年6月、ドイツ・ベルリンで開催されるテックイベントTOA(Tech Open Air)に参加したが、当地で出会った日本からの参加者の多くが、大手企業のエース級人材と思われる新規事業関係者だった。TOAは技術を基軸に、新しいビジネスやライフスタイルの提案が満載の極めて刺激的なイベントであるが、ベルリンという欧州大陸の真ん中にまで会社のエース級人材を送り込んでくるのだから、大企業の危機感は強いのだろう。
しかし、私のような者から見ると、大手企業の新規事業に対する姿勢には疑問を感じることが多い。本来、新規事業は「choice」(選ぶこと)ではなく「must」(必要なもの)である。おそらく大企業に勤める方々も、頭の中では新規事業が「must」であるとわかっているのだろうが、彼らの振る舞いを見ている限り、本気で取り組む姿勢が足りないと感じる。もしかしたら、彼らは失敗したくないという意識が強すぎるのかもしれない。
また、大企業に勤める方々の多くは、短期的な成果を求めすぎるようにも思える。そして、新規事業の可能性を過小評価する傾向も強いように感じる。おそらく新規事業を既存事業と比較することで、「既存事業に経営資源を集中した方が効率的だ」といった判断をしているのかもしれない。ただ原因は何であれ、そうした姿勢が強ければ強いほど、新規事業はいつまで経ってもtake offしない。