『週刊ダイヤモンド』10月12日号の第一特集は、「介護 全比較」。自宅での介護が難しくなった時、どの介護施設を選んだらよいのか。特別養護老人ホーム(特養)、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)など、主だった施設の特徴と選び方をまとめた。有料老人ホームについてはわかりにくい料金体系を徹底解明、特養については入所待機期間を減らすコツなども掲載。施設見学、体験入居の候補を見つけるのに、特集の最後の「有料老人ホーム・ランキング」は参考になるはずだ。

有料老人ホームの入居者の権利は脆弱
民法上の居住権もない

 今年1月、首都圏で有料老人ホームを運営する会社が民事再生法の適用を申請した。「未来邸」や「未来倶楽部」など37ホームを運営していた未来設計という会社で、負債総額は53億8600万円。有料老人ホームの運営会社としては、過去最大級の倒産である。

 老人ホームの最大の債権者は、入居金を払いこんだ入居者だ。破綻した時点で、1500人以上の入居者からの預り金の総額は約34億円に上る。破たんしても、ホームの運営は続いていて、退去を迫られるわけではない。だが、ほかのホームに移ったり、早く死亡したりした時に、本来なら戻ってくるお金は消えてしまった。

 すでに再生計画案はまとまっており、それによると、確定した入居預り金債権は約30億円(債権者数は1154人)。これが99.4%カットされることになる。

 有料老人ホームの入居者の多くは、そこが終の棲家となることを想定して入居する。そのために、自宅を処分するなどして、財産の大部分を入居一時金の支払いにあてる。

 もともと、入居者の法的な立場はぜい弱である。たとえ数千万円の入居一時金を払っても、居住権は確立されていない。徘徊がひどくなったりしてホームでの生活が困難になれば、退去を迫られることもある。賃貸借契約で、民法上の居住権が守られているサービス付き高齢者向け住宅とはそこが違う。

 法的な位置づけがあいまいなだけでなく、会計法上のルールもハッキリしていない有料老人ホームの入居一時金。何百万円も何千万円も払って、泣き寝入りしないためにはどうしたらよいのか。

 今特集では、わかりにくい料金体系を明らかにし、要介護の状態や入居年齢に応じた賢い支払い方や、入居金の保全方法の違いによるメリット・デメリットなどを解説している。

有料老人ホーム・ベスト1100
エリア別・タイプ別に有力候補が勢ぞろい

 有料老人ホームを探す際、数多くあるホームの中から、当てずっぽうに自分や親に最適なホームを探し出すのは容易なことではない。

 そこで、介護が必要になった家族のため、あるいは自分のために有料老人ホームを探す際に、役に立つランキングを作成した。数多くあるホームから候補を絞り込む時の目安として参考にしてほしい。

 ランキングの対象エリアは、介護付き有料老人ホームが200以上ある自治体(北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県)。データを取得できたのは2486ホームだが、誌面の都合から、そのうち上位の1100ホームを都道府県別に得点順に掲載した。

 各自治体ともに、主に要介護状態の人が入る「介護型」と、ある程度身の回りのことが自分でできる人が入る「自立混合型」に分けて、ランキングを作成している。さらに、東京都と神奈川県は、介護型を5年総費用の額(2000万円以上・未満)に分類した。


 強調したいのは、ベスト1100ホームのランキングであり、下位でも平均以上の評価のホームであるということだ。

 ランキング上位のホームで、希望するエリアにあり、かつ予算の範囲内もしくは比較的費用が安いホームを見学や体験入居の候補にすることをお勧めする。

見学は忙しい時間帯のランチタイム
そのホームの介護レベルが判別できる

 老人ホームを選ぶ際に何より重要なのが、実際にホームを見学してみることだ。ホームの雰囲気や職員の接遇や態度、内観や設備などは、どうしても直接見てみないことには分からない。職員数といった表面上の数値だけではなく、これらの現場の雰囲気を感じ取ることが肝心だ。

 ある程度、狙いのホームに目星がついたら、まずは直接連絡して見学を申し込もう。“アポなし訪問”で抜き打ちチェックを進める専門家もいるが、実際には予約した方がスムーズだ。

 その際にお勧めなのが、ランチ時間帯などの忙しいタイミングでの見学を希望すること。特に食事介護は、ホームの介護レベルなどがもろに現れるので、多くの専門家がチェックを勧めている。

 例えば、スプーンなどを上から押しこむようにしている場合は、誤嚥する恐れがあり、基本的な介護がおろそかになっている。尊厳的な暮らしを大切にしているホームであれば、車いすから食事用の椅子に移す、食器も陶器を用いるなど、細かい点が配慮されている。

 ホームの見学は巡回コースが決められている場合が多いが、可能な限り食事見学を要望したい。

体験入居時は入居者にコンタクト
議事録はそのホームの不満が満載

 加えて、見学だけでなく、必ず体験入居を行うことも忘れてはいけない。体験入居ができないホームなら、選択肢からはずした方が無難だ。

自費ではあるが1泊~1週間程度実際に宿泊してみることで、朝や夜の雰囲気、実際の介護方法など、見学の「お決まりコース」ではうかがい知れなかったリアルが浮き彫りとなる。

また、この時、すでに入居している人から話を聞くことも大切だ。ホームは定期的に入居者・家族らとの意見交換会を開いているが、その議事録には施設への不満が赤裸々とつづられている。職員からは決して入手できないが、入居者が持っている場合があるので、どういった不満があるのか傾向を探るのに役立つだろう。

ちなみに、特養の場合は、体験入居という考え方はないが、居宅サービスの一つであるショートステイを利用できる場合がある。顔なじみなることで入所しやすくなるメリットもあるので、特養狙いの場合は、こちらも活用したい。

 ただ、特養の場合、施設が合わなくても、初期費用が掛からないので退去はしやすい。特養は公的な施設であり、費用が安いわりに介護サービスは充実しており、終の棲家としては最適な施設である。

 しかし、入るには要介護3以上と条件が厳しく、待機者が多いのが難点。今特集では首都圏と関西圏で特養が入りやすいエリアや、待機期間を短くするためのコツなども紹介しているので、参考にしていただきたい。