IOCが東京五輪のマラソンと競歩会場を札幌に移転すると決めた。IOCを身勝手だとする議論もあるが、東京都の暑さ対策のいい加減さには専門家からも疑問の声が出ていたほどで、組織委員会と東京都が自然をナメていただけである。そしてもう1つ、IRも巨大地震のリスクを無視して、有力政治家のパワーによる無責任な誘致が進んでいる。(ノンフィクションライター 窪田順生)

東京都の暑さ対策は
驚くほど甘かった

ドーハの世界陸上で救護を受けるマラソン選手ドーハの世界陸上では選手や観客に熱中症が続出し、暑さの危険性を浮き彫りにした。しかも東京都の「暑さ対策」はどれも効果が疑わしいとなれば、IOCの決断は合理的である Photo:EPA/JIJI

 いまだ多くの地域に爪痕を残す台風被害や水害に続いて、またしても我々は「自然の猛威」をナメたことで、手痛いしっぺ返しを食らってしまったようだ。

 IOC(国際オリンピック委員会)が、東京2020の目玉だったマラソンと競歩について「暑さ対策に課題が残る」と札幌開催に変更すると言い出したのである。

 2013年に招致決定してから、国内外から「史上最も過酷な大会になるのでは」「あんな炎天下で運動や長時間観戦をしたら大惨事だ」など暑さへの不安が指摘されていたが、組織委員会や東京都は「ぜんぜんヘーキっすよ」と言わんばかりに、余裕をかましてきた。

 大会までに路面温度が上昇しないという「遮熱性舗装」を136キロも整備するのでランナーは超快適。会場近くには日陰やミストシャワーも整備するので、観客やボランティアも安全。なんて感じで国内外に「暑さ対策は万全」をアピールしてきた。その結果がこれだ。

 ただ、冷静に振り返れば、IOCがそのような判断を下すのも致し方ないほど、東京都は「夏の暑さ」をナメていた節がある。

 例えば、「遮熱性舗装」についてはかなり前から、その効果が疑わしいというツッコミが一部の専門家や医療関係者から寄せられている。路面の温度が少しくらい下がっても、その上を走っている人間の頭部や身体には、凄まじい直射日光が浴びせられるのだから、文字通り焼け石に水ではないのかというのだ。

 それを裏付けるようなデータもある。8月30日の日本スポーツ健康科学学会で、東京農業大の樫村修生教授が「遮熱性舗装」の上を走っている人間が体感する温度が、普通のアスファルト道路よりも高くなったという研究を発表したのだ。

 ミストシャワーも同様である。今年7月下旬、お台場のビーチバレーボール大会の会場でミストシャワーのテストが行われたが、そこで計測された暑さ指数は、環境省が「全ての生活活動で熱中症になる危険」とする28度を大きく超えた31.1度だった。