「マヌケ」という言葉は、「バカ」と混同されがちだけど、「マヌケ」という言葉を使っていたら人間関係も仕事関係も良くなっていくし、マヌケであればあるほど運はたまっていくよ!
そんな、欽ちゃんのあったかい言葉が詰まった本『マヌケのすすめ』が、発売になりました。この連載では『マヌケのすすめ』から、とくに心に響く部分を抜粋して、萩本欽一さんの言葉を紹介していきます。(撮影/榊智朗)

萩本欽一 清六に舞台への出演を頼んだら断られた。<br />「マヌケ」らしくないなと思ったら……

本当にマヌケで、本当にかわいいヤツだなと思ったね

 斎藤清六の話を始めるとキリがないんだけど、何年前だったかな、テレビでいっしょに番組やってた頃からずいぶん時間がたって、たまには仕事したいなと思ったから、電話したの。
 ちょうど新宿のコマ劇場で公演があって「清六ちゃん、出ない?」って。

 そしたら、はっきり「イヤです。出ません」って言うの。
 あいつがそんなふうにはっきり「イヤ」って言うのは珍しいんだよね。
 いろいろ都合もあるだろうと思って「あっ、そう。
 でもさ、時間があったら来てよ。出たくなったらおいで」って言っても「出ません」としか言わない。
 なんかヘンなんだよね。
 マヌケらしからぬ頑なさ。

 いつも客席で観てくれてるから、そっちは来るかなと思ってたら、公演のあいだじゅう一 度も来なかった。
 あいつ、来ても楽屋に寄らないんだけどね。
 誰かが「大将に会っていけばいいのに」って声かけても「いやいや、ぼくは」って帰っちゃう。
 だけど、必ず誰かが「今日、清六さんが客席で『いやいや、ぼくは』って言ってましたよ」と教えてくれるから、来ればわかるんだよね。

 そしたら、1年後にいきなり電話が来たんです。
 「あの、大将、今日からは、もし舞台とかあったら呼んでください」だって。
 これから舞台だってときに声かけても「出ない」って言ったのに、終わってずいぶんたってからそんなこと言ってきたのが不思議じゃない。
 「その理由を述べよ」と聞いたら、

 「はい、今までは母が病気で看病をしてました。出るのをお断りしたときに、そのことを言ったらご心配をおかけすると思って言わなかったんです。じつは、今日亡くなりました。だから、もう出られます」

 なんて言い出してさ。
 こいつ、本当にマヌケで、本当にかわいいヤツだなと思ったね。1年前に電話したときに「こういうことがありますので、出るか出られないかわかりません」と言えばいいのに、そうじゃなくて「イヤです」って。
 それ、ちょっと言葉の使い方がおかしい。こっちとしては、嫌われたのかなと思っちゃうじゃない。

 でも、清六はぼくに電話をもらったことはずっとありがたいと思っていて、「母が今日亡くなりましたので」って電話してきた。
 「お前は、人のことを考えて、自分のことをいちばん後まわしにして、なんて素敵なマヌケなんだ」ってホメてやったんだよね。

(本原稿は、萩本欽一著『マヌケのすすめ』からの抜粋です)
*撮影協力/駒澤大学