『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が、発売2ヵ月半で10万部を突破。分厚い788ページ、価格は税込3000円超、著者は正体を明かしていない「読書猿」……発売直後は多くの書店で完売が続出するという、異例づくしのヒットとなった。なぜ、本書はこれほど多くの人をひきつけているのか。この本を推してくれたキーパーソンへのインタビューで、その裏側に迫る。
今回インタビューしたのは、独立研究者・パブリックスピーカーの山口周さん。山口さんは、『独学の技法』著者であり、出版前の段階で「この本、とても面白いです」と本書を評価していた一人。どんな点に魅力を感じたのか、話を聞いた。(取材・構成/樺山美夏)
第2回:【山口周×『独学大全』】「他人にだまされてばかりの人」と「自分の頭で考えられる人」をわけるたった一つの致命的な要素

【山口周×『独学大全』】残念な「勉強法ホッパー」と「独学を武器にできる人」の決定的な差

「人が決めたカリキュラム」で勉強したくなかった

――山口さんは、『独学の技法』という本を書かれています。MBAをとらずに独学で外資系コンサルタントになった経歴もありますが、なぜずっと独学にこだわってきたのでしょうか。

山口周氏(以下、山口) 独学にこだわったというよりは、他人が決めたカリキュラムに沿って勉強するのが嫌だったんです。

 人にはそれぞれ「知りたいと思うテーマ」があって、それを「学ぶための時間」「学びたいと思うレベルの深さ」がある。この3つを掛け算することで、知的欲求が満たされますよね。でも、自分だけの学びに適した、おあつらえ向きのカリキュラムなんてありません。

 たとえば経済学の授業で、スティグリッツの『入門経済学』を読んでいて、「金利って面白いな」と思ったとします。これが大学やMBAの授業ではサラッと触れるだけでどんどん先へ進んでいってしまう。でも僕は、「金利」のことだけ深掘りしたくなって、金利の本だけ読みたくなるんです。

 もともと飽きっぽい性格もあって、つまらない授業を聞いても頭に入ってこないし、面白いと思うことも徹底的に調べてある臨界量を超えないと頭に残りません。そんな感じだったので、高校時代からあまり授業には出ずに、図書館や博物館によく行って、自分がやりたい勉強だけずっとやってきました。

「無知くんと親父さんの対話」にハッとさせられる

――読書猿さんの『独学大全』にも「独学の量で人生は決まる」と推薦文を寄せていらっしゃいます。最初にこの本を読んだとき「すごく面白い」と思われたそうですが、どういうところが特に面白いと感じましたか。

山口 各章の冒頭にある「無知くんと親父さんの対話」ですね。この2人の対話だけ小冊子にして売るとすごい宣伝になるんじゃないですか? それくらい、面白かったです。

 たとえば、第7章の「知りたいことを発見する」の対話。

無知くん「学びたいのですが、何を学べばいいのかわかりません」
親父さん「改めて言う話じゃないが、お前には知りたいことはないのか?」
無知くん「大っぴらに話すことではありませんが、恋が知りたいです」
親父さん「それは別の本でやれ」

 いいですよね、このかぶせ方。あるいは、第11章の「情報を吟味する」の対話。

親父さん「独学者は生徒(学び手)と教師「教え手」の一人二役だ。学び手として進歩すれば、教え手としても進歩する。こうして進歩に正のフィードバックがかかり、独学の学びは指数的・幾何級数的に向上する」
無知くん「おお、そういう景気のいい話を待ってました!」
親父さん「しかし、これは独学の可能性であると同時に危険性であるとも言える。生徒(教師)として間違えば、必ず教師(生徒)としても間違うからだ」

 これは本当にその通りで、ハッとさせられました。情報を吟味して正しい情報を見分けるためには、ある程度まとまった数の本を読むとか、自分にはしっくりこない本にもあえて目を通すことも大事ですから。

 もうひとつ、無知くんと親父さんの対話は、学びに向けた心構えについて繰り返し話している点もポイントです。この心構えがあってはじめて学びが駆動しますし、学びが駆動してはじめてスキルを網羅した『独学大全』が役立つと思うので。

 家を建てるときも同じですよね。屋根や壁や床の作り方を何パターンも覚えて、材木や釘や工具の材料をたくさんそろえても、住みたい家のイメージがなければ家は建てられませんよね。独学も同じで、学びによって何をしたいのか、学ぶことでどういう人間になりたいのか、パーソナルなビジョンがなければ、モチベーションは長続きしないでしょう。

【山口周×『独学大全』】残念な「勉強法ホッパー」と「独学を武器にできる人」の決定的な差『独学大全』に出てくる無知くんと親父さん

「勉強法をハシゴする人」になるな

――「まだ英語は話せないけれど、いろいろな英語の勉強法を試している」という人がいるように、「学び方を学ぶこと」を楽しむ人もいるようです。『独学大全』も、多種多様な技法を学べるだけで満足度が高いと感じますが、そのことについてはどう思われますか。

山口 もちろん、独学法自体を学ぶことを楽しむ読み方もあるでしょうし、勉強法を勉強するのが好きな人たち、いわば「勉強法ホッパー」の一定のマーケットはあると思います。でも『独学大全』の使い方としては、少し違うのでは……と僕は思います。これは、そういう段階から一歩踏み出して、行動するための本だから。

 確かに、勉強の技法をずーっと学んでいたい気持ち、よくわかります。

 僕も作曲を習っているんですが、まさに、その壁にぶつかっているんですよ。和音やフーガの課題をやっているときは、いい響きが出ると「おお!」となって楽しめる。でも、いざ曲を作るとなると途端に気分が乗らなくなるんです。作ってはみるんだけど、「うーん、まだだなあ、何かが違うぞ」とか言って、延々アウトプットしない……。

 作曲の先生にも、「山口さん、もう練習はいいですから、とにかく一曲作ってみましょうね。作らない限り、私もアドバイスができませんからね」と呆れられています(笑)。

――確かに、武器をずっと触ったり撫でたりしているだけで、使わないのはもったいないですね……。

山口 価値あるものはすべて独学で学べますし、独学で学んだ武器は使ってこそ価値があるものだと思うのです。

『独学大全』には、方法論としての武器はそろっているわけですから、あとは自分に必要なことを学んで戦いましょう。僕が独学するのは本を書くため。本を書くことで戦っているようなものです。

【山口周×『独学大全』】残念な「勉強法ホッパー」と「独学を武器にできる人」の決定的な差山口周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。著書に『ニュータイプの時代』『知的戦闘力を高める 独学の技法』(以上、ダイヤモンド社)『ビジネスの未来』(プレジデント社)など。