ボストン大学には、大真面目に「(異性を誘って)対面のデートをする」授業があるという。いったいどんな内容で、どのような狙いがあるのか?「世界的なリーディング・シンカー」といわれるノリーナ・ハーツ(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン名誉教授)の新刊『THE LONELY CENTURY なぜ私たちは「孤独」なのか』より紹介する。

スマートフォンがコミュニケーションに与える悪影響が心配されるなかで、多くの意味でもっとも懸念されるのは、私たちの対面交流の能力まで低下してきたことだ。

私がそのことに気づいたのは、数年前のある夕食会で、米国のアイビーリーグ大学の総長の隣になったときだ。この総長は、最近の新入生の多くが、会話中の最も明白なサインさえ読み取れないことに危機感を覚えて、「表情を読み取る方法」という授業を設けたと言っていた。

ボストン大学のケリー・クローニン教授は、もっとユニークな対策を考案した。学期中に誰かを対面でデートに誘って実現したら、追加単位を与えることにしたのだ。

きっかけは、ある日の授業で、キャンパスでの出会いを取り上げたときだった。きっと学生たちは、セックスや恋愛関係について質問をしてくるだろうと思ったのに、実際はもっと基本的なこと、つまり「どうやって誰かをデートに誘うか」を知りたがったという。現代の若者にとって、デートは「もはや存在しない社会的シナリオ」だったのだ。だからクローニンは対策に乗り出すことにした。

米ボストン大学で学期中に「対面デートをする」と追加単位がもらえる理由とは?デートはもはや存在しない社会的シナリオ…?(写真はイメージ。Photo: Adobe Stock)

追加の単位をもらうためには、22のルールを守らなくてはいけない。

・デートアプリやソーシャルメディアなどのデジタルツールを使わないこと。
・対面で相手をデートに誘い、実際にデートをすること。
・もし合わないと思っても、ゴースティング(突然連絡を一切断つこと)は禁止。
・デートの場所は映画館はダメで、アルコールを伴うことも、フレンドリーなハグ以上の身体的接触もいけない。

つまり、本物のコミュニケーションを避けたり、暗い劇場に隠れたり、酒の勢いを借りたり、誘うだけで会話をしないのはダメ。実際に誰かに話しかけて、気まずい思いをしたり、緊張したり、そわそわしたりする経験を伴わなくてはいけない

クローニンは学生たちに、会話の助けとなる質問やトピックを事前に2~3個用意しておくことを勧めた。また、会話が途切れるのは自然なことだと言い聞かせた。ソーシャルメディアで、次から次へとコミュニケーションや娯楽が流れてくることに慣れた世代には、現実の世界には沈黙もあることを説明する必要があったのだ。

スマートフォンでコミュニケーションを取ることに慣れ、ある学生の言葉を借りれば、「生身の交流を恐れて」いる世代にとって、対面デートがチャレンジングに感じられるのは、ボストン大学の学生だけではない。「エッセーを書く方法」や「食中毒の対処法」「ペットが家具に上らないようにする方法」などのノウハウを教えてくれるウェブサイトのウィキハウには今「対面で誰かを誘う方法」という記事があり、イラスト付きで12のステップを紹介している。

計算機が人間の暗算能力を奪ったように、デジタル・コミュニケーション革命は、私たちが対面できちんとコミュニケーションを取る能力を低下させる恐れがある。ソクラテスの「使わない能力は失われる」という警告には一理あるのだ。