社員の力を最大限に引き出す組織づくりとは?変革を推し進めるNECと三菱重工の葛藤とリアルに迫るデザイン:McCANN MILLENNIALS

DX、SDGs、コロナ禍――急激な社会情勢の変化を受け、企業には真の変革が求められている。しかし、組織の中で変革を推し進めることは容易ではない。真の変革には痛みがつきものである。本当に変わろうとする組織の中で今、何が起こっているのだろうか。
『大企業ハック大全』刊行に先駆けて、2021年10月31日に開催されたONE JAPAN CONFERENCE 2021では、宇田川元一氏(埼玉大学 経済経営系大学院 准教授)、平野祐二氏(三菱重工業株式会社 シニアフェロー、民間機セグメントエアロストラクチャー事業部長)、森田健氏(日本電気株式会社 カルチャー変革本部長)をパネリストに迎え、篠田真貴子氏(エール株式会社 取締役)進行のもと、変革を推し進める組織カルチャーづくりのリアルな現状を聞いた。(構成/矢野由起)

現在進行形で起こっているリアルな企業内変革

社員の力を最大限に引き出す組織づくりとは?変革を推し進めるNECと三菱重工の葛藤とリアルに迫る平野祐二(ひらの・ゆうじ)
三菱重工株式会社 シニアフェロー/民間機セグメント エアロストラクチャー事業部 事業部長 兼 名古屋航空宇宙システム製作所長
1960年生まれ。1981年に三菱重工業株式会社名古屋航空機製作所(当時)に入社、航空機構造体の製造、2005年から14年間はBoeing787主翼の開発・製造に一貫して携わる。2019年執行役員に就任、以降民間航空機構造体(主翼、胴体パネル等)事業を担いながら、従業員との対話・つながりを大切にし、現場の声に耳を傾けた事業部門の運営を行う。

篠田真貴子氏(以下篠田):まずは自己紹介とあわせて、それぞれの企業で今直面されている状況を教えていただけますか?

平野祐二氏(以下平野):私は入社以来40年間、名古屋地区でエアロストラクチャー事業、つまり民間航空機の構造を作る仕事に携わってきました。最近では、炭素繊維複合材を使用した航空機「ボーイング787」の主翼の製作などを行っています。

 しかし、コロナ禍によって人の移動が制限されたことで、国際線の需要は大幅に減少。それに伴い、私たちの仕事量も2019年比で7〜8割減少するという、非常に厳しい状況に置かれています。売り上げベースでは、約半減。このような状況がしばらく続くと予想する中、いかにして持ちこたえるかが今の大きな課題です。

森田健氏(以下森田):私は1995年に社会人になって以降、ずっとNECに在籍しています。はじめは営業やマーケティングに、2012年からは企業変革に携わっています。2012年当時、NECは経営状況が非常に悪く、私は会社を辞めようと思っていました。しかし「辞める」でも「染まる」でもなく、会社を「変える」選択をした。そのために、経営企画という企業経営のど真ん中へ飛び込んだのです。

 そして2018年、中期経営計画の中で前社長が「実行力の改革」を掲げました。この3〜4年がその実行フェーズであり、NECはまさに変革のさなかにあります。この大変革のきっかけは、社長が現場に出て社員と対等に語り合う場を設けたことです。その場で社員から「NECは大企業病だ」「内向きだ」「スピードが遅い」など、率直な意見を突きつけられたことが社長の危機感に火をつけ、「Project RISE」という大改革を始めることになったわけです。

 NECは過去にも何度か「○○改革」と呼ばれるものを実施してきましたが、いずれも1つの課題のみに限定した改革であり、失敗に終わってきました。しかし「Project RISE」では、人事制度改革から働き方改革、コミュニケーション改革までセットで実施。その中でも、特にコミュニケーション改革、すなわち社員との対話が鍵だとわかってきました。今は社長が代わり、コミュニケーションも非常にカジュアルに。コロナ禍によってオンラインミーティングを行うようになり、毎月多くの社員が社長と対話しています。人事制度も改革し、今では月に50〜60人の人材が外部から入ってきている状況です。

 これらの施策実行フェーズを私たちは「Un-freeze」と定義しています。すなわち、硬直状態を溶かすための基盤整理の時期。経営陣をまったく信用していない状態から、「信用してもいいかな」と変わってきたイメージです。今後は、さらに変革するための時期として、具体的な施策を実行していく予定です。「Un-freeze」のフェーズが非常に大事だったと感じています。

宇田川元一氏(以下宇田川):私は、埼玉大学で経営戦略論を教えています。現在の研究テーマは、大手企業やスタートアップ企業の「再イノベーション化」です。企業が再びイノベーティブになるためにはどうしたらいいのかを研究しています。マクロ的な企業変革も、個人テーマに掲げています。また、ONE JAPANのメンバーでもある東洋製罐グループホールディングスのイノベーション推進室と、Future Design Laboratoryのアドバイザーも兼任し、イノベーション戦略を検討。その他、スタートアップ企業のアドバイザーも行っています。

 今は、多くの人が「企業を変革しなければならない」と感じているはずです。企業改革と聞くと、抜本的改革を思い浮かべるかもしれません。いわゆるV字回復のイメージですね。しかし、多くの企業にとってV字回復的な変革は必要ありません。企業の状態も、急に落ち込んだのではなく、売上高が毎年2%ずつ10年間落ちつづけているというような状況が多いのではないかと思うんです。つまり、慢性疾患というべき状態です。そこに必要なのは、外科手術的な改革ではなく、日々のセルフケアを続けて寛解を目指すこと。そうして着実に変革しつづけることが、今の企業変革には必要だと考えています。

篠田:私どもエール株式会社では、社外人材によるオンライン1on1の提供を通して、企業変革のラスト1マイルをつなぐ支援をしています。具体的な事業内容は、企業と契約をして組織に所属する方一人ひとりに1対1で話を聴く社外サポーターをマッチングすることです。そして、週1回30分の定期的な対話により、それぞれの考えや思いの言語化を進めていきます。組織全員に対して行うので、全員の思考の言語化が同時に進みます。その結果、社内のコミュニケーションの質が変わっていくんです。

 組織の責任者の方は、会社の方向性やメッセージを打ち出すことはできても、社員一人ひとりにそれを消化させるところまでは手が回りません。そこを外部からサポートするのが私たちの仕事です。ポイントは「聴く」ということ。コミュニケーションは「話す」「聴く」で成り立っているので、「聴く」ことに意識を向ければ突破できることもあると考えています。