対話を諦めないことが企業変革の第一歩
エール株式会社取締役
社外人材によるオンライン1on1を通じて、組織改革を進める企業を支援している。2020年3月のエール参画以前は、日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年~2018年ほぼ日取締役CFO。退任後「ジョブレス」期間を約1年設けた。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。人と組織の関係や女性活躍に関心を寄せ続けている。監訳書に、『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』(日経BP)、及び『ALLIANCE アライアンス――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』(ダイヤモンド社)。
篠田:最後に、パネリストの皆さんのご経験を踏まえた学びや教訓をお一人ずつ教えてください。
森田:私はもともと現場で営業をしていて、39歳で「変える」選択をし、経営企画に飛び込みました。これは私の性格上、ゆっくりやるより一気に変えたかったから。でも、全員がそうである必要はないと思っています。
社長もただの人間ですし、悩んでいるんです。自分が現場に聞きにいっても、「Un-freeze」できていないと率直な意見なんか聞けませんから。現場の生の声をどんどん上げていってください。そうすると、社長との間でその意見をハンドリングする人が必ず現れて、声を社長へ届けてくれます。「会社を変える」と考えると大変なので、まずは自分のチームや部署からでいいと思います。あまり気負わず、でも諦めずに声を上げつづけてください。
平野:私は宇田川先生がおっしゃっていた「慢性疾患」という言葉が非常に印象に残っていて、40年間それに気づかずにここまで来てしまったことを反省しました。コロナ禍でその慢性疾患に気づけましたが、本来は環境変化が起こる前に気づかなければならない。今後はそういった視点で組織を見ていきたいですね。
また、私が一担当者だった頃を振り返ると、やはりトップ層との距離があったと思います。しかし、今はつながるツールが数多くありますから、言いたいことは言ったほうがいい。実際に私も、組織風土改革のメンバーとは常日頃からコミュニケーションをとっていますし、どのような意見でも一旦は受け止めて挑戦しようと考えています。何か感じることがあるのなら、ダメもとでもいいので、一度上に提案してみてはどうでしょうか。
宇田川:1冊目の著書『他者と働く』の最後に、「組織の中で対話をするということは、誇りを持って生きることだ」と書きました。私はこの場でもう一度それを伝えたい。「会社が変わらないから焦る」という気持ちもよくわかります。しかし、一歩踏み出さなければ何も進まないのです。だから諦めないでほしい。
NECも本当に変わってきています。しかしそれまでの過程は、誰もが必死にもがいてきたんだと思うんです。それは平野さんの事業部も同じはずです。その中で歯車が噛み合うタイミングは、必ずやってきます。若いうちにそうやってもがいていた人たちが40歳50歳のミドル層になったとき、見える景色や若手への接し方は大きく変わるでしょう。いい会社を作るためにも、今、諦めないでほしい。対話を続けていただきたい。誇りを持って仕事をしていただきたい。そう思っています。
篠田:NECも平野さんも、リーダーの方が社員の声を聞くために、まず「私」という人間が伝わる話し方でコミュニケーションを取られたことが非常に印象的でした。役割としてではなく、自分のことを自分の言葉で話したからこそ、メンバーも「自分」を主語にした率直な意見を伝えてくれるようになったのだと感じます。そして、双方の「聴く」姿勢が変化した。その結果、お互いに同じ事実を認識できるようになったわけですね。コミュニケーションの解像度を上げたとき、鍵になるのは「聴く」姿勢なのかもしれません。
組織の変革を成し遂げるためには、社員一人ひとりの声を届けることが第一歩です。声を上げることには葛藤も伴います。なかなか届かない焦りもあるでしょう。しかし宇田川先生もおっしゃっていたように、声を届けることを諦めないでほしいと思います。