企業と個人それぞれの「パーパス」の重なりをいかにして見つけるか?デザイン:McCANN MILLENNIALS

近年、人事領域で注目されている「パーパス」。ミッション・ビジョン・バリューを掲げる企業が多い中で、パーパスを経営理念の中心に置く企業も現れてきている。企業と働く個人にとって、パーパスとはどのような存在なのか。そして、パーパスを実践するためには何が必要なのか。
『大企業ハック大全』刊行に先駆けて2021年10月31日に開催されたONE JAPAN CONFERENCE 2021では、曽山哲人氏(株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 CHO)司会のもと、後藤照典氏(アイディール・リーダーズ株式会社 COO)、島田由香氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長)、三好敏也氏(キリンホールディングス株式会社 取締役常務執行役員)らに、パーパスの現在と未来を語ってもらった。(構成:矢野由起)

年々高まっているパーパスの重要性

企業と個人それぞれの「パーパス」の重なりをいかにして見つけるか?島田由香(しまだ・ゆか)
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長
1996年慶応義塾大学卒業。2002年米国ニューヨーク州コロンビア大学大学院にて組織心理学修士取得。学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。高校三年生の息子を持つ一児の母親。日本の人事部「HRアワード2016」個人の部・最優秀賞、「国際女性デー|HAPPY WOMAN AWARD 2019 for SDGs」受賞。他、Team WAA! 主宰、YeeY Inc. 代表、一般社団法人dialogue 代表理事、Delivering Happiness Japanチーフコーチサルタント、Japan Positive Psychology Institute 代表、米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLP®トレーナー。

曽山哲人氏(以下曽山):ここ数年、「パーパス」という言葉に大変注目が集まっています。そこで、企業の人事を担当されている島田さん、三好さんと、パーパスのコンサルティングをされている後藤さんにお話を伺っていきます。

島田由香氏(以下島田):パーパスは、私の大好きなテーマです。企業経営においても個人にとっても、パーパス以上に大切なものはないと思っています。私自身もここ20数年ほど、ずっとパーパスに携わってきました。

三好敏也氏(以下三好):キリングループは、CSV(共有価値の創造/Creating Shared Value)を経営の根幹に据え、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」ことをビジョンに掲げています。酒類メーカーとしての責任を果たすことを前提に、健康/地域社会・コミュニティ/環境を重点課題として、私たちの力でさまざまな社会課題を解決したいというのが、私たちのCSVパーパスです。常にこのパーパスを拠り所として企業活動を推進したいと考えています。

後藤照典氏(以下後藤):私たちはパーパス・マネジメント・コンサルティングやエグゼクティブ・コーチングを行っています。当社のパーパスは「人と社会を大切にする会社を増やします」。企業の役員合宿などでパーパスを作るプロセスの支援を行ったり、Webメディアでパーパスに関する記事を連載したりしています。

なぜ今、企業は自社の「存在意義」を考える必要があるのか

曽山:パーパスに関わっている御三方に、まずはパーパスの捉え方について伺いたいと思います。そして、パーパスが企業や社会にどのような影響を与えるのか、お考えを教えてください。

島田:パーパスとは、大いなる目的だと私は考えています。言い換えれば、存在意義です。そしてユニリーバのパーパスは、日本語で「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」。ユニリーバがこの地球に存在している理由は、持続可能な社会づくりのきっかけになるためだということです。そして「Brands With Purpose Grow」「Companies With Purpose Last」「People With Purpose Thrive」、すなわち、ブランド・会社・人のすべてにパーパスは必要だとユニリーバでは考えています。

 約130年前、衛生環境の悪かったイギリスで、リーヴァー卿という方が石鹸を作りました。それによってイギリスの衛生環境が劇的に改善しました。たった1個の小さな石鹸でも、世界は大きく変えられる――この考え方がユニリーバの根底にあるんです

曽山:パーパスと社会、そして生活者とのつながりについて、三好さんの視点を教えてください。

三好:キリングループが創業当時から大切にしていた志を、現代の文脈で読み解いたものがCSVであり、もっとも大切にしている考え方です。CSV経営に至った原点は、2011年3月の東日本大震災でした。キリンビールの仙台工場も津波の被害を受け、壊滅的な状況に。東北復興のシンボリックな意味や地域との関係性も踏まえて、早急に復興しようと投資を決めたわけです。ただ、周囲を見るとまだ復旧・復興が全然できていなかった。そこで、2011年7月に「復興応援 キリン絆プロジェクト」を立ち上げ、支援することにしました。しかし、持続性という点では疑問が残り、社内で議論が続いていたんです。

 そして2013年、現社長の磯崎功典がマイケル・ポーター教授と会ったことで、CSVという考え方に触れることになります。企業である以上、経済的利益を循環させて社会貢献に投資するループを回していかなければ、持続できない。そこから、社内でCSV経営を立ち上げ、CSVパーパスを定めて取り組んでいるところです。すべての事業がそのパーパスに貢献しており、常にパーパスに立ち戻って事業活動を考えるようにする。それが当社とパーパスの関係です。

曽山:東日本大震災の支援活動を続けていくなかでCSVというキーワードに出合い、大きな定義変換が起こった。社内でもかなりの議論があったのではないでしょうか?

三好:今でこそCSV経営という言葉が普及しはじめていますが、10年ほど前は「CSRでいいのではないか」という風潮でした。そのため、社内ではさまざまな議論を巻き起こしました。ただ興味深かったのは、社外取締役の方々が応援してくれたことです。意思決定の場の多様化が、CSVを推進してくれた気がしています

曽山:社会に向けた言葉を発することで、より社外の応援が増えたということですね。