ビール大手各社の2009年のビール類(発泡酒、第三のビールを含む)のトップシェアは2社が並存することとなった。

 正月明け早々に各社が発表した「販売数量」ではアサヒが1億7700万ケースで、キリンの1億7680万ケースを僅差で上回り首位を守った。だが、その一週間後に発表された販売先が未確定の在庫分を含む「課税数量」という業界の“公式統計”をベースにした「出荷量」では、キリンが1億7799万ケースと、アサヒの1億7719万ケースを約80万ケース上回る異例の展開となった。

 昨年秋の時点で両社のシェアは拮抗。それだけに昨年は年末にかけて意地と面子がぶつかりあうような激しい営業合戦が繰り広げられていた。リベートの乱発や押し込み販売の横行など、不毛な争いへの反省から、近年は落ち着きを見せていた「シェア」という数字の争いが久しぶりに復活した格好だ。

 ビールメーカーは「営業で優位になる」「棚が優先的にもらえる」などと「トップシェア」の冠の効用を語るが、流通側は「消費者のニーズで決める」(東京都内の食品スーパー)と冷静だ。

 ビール類の市場規模は前年比2.1%のマイナスと5年連続で最低を更新し、「シェア争いよりも消費拡大となるような努力を業界全体で考えるべき時」(相場康則・サントリー酒類社長)と業界内でも反省や批判の声は多い。

  両社の「勝敗」は別として、余裕の表情を見せているのがキリンだ。縮小市場での“踏ん張り”と、成長市場での勢を見せたからだ。

 ジャンルで見るとビールは前年比6.7%も減少と市場縮小に歯止めがかからない。ビール市場でシェア5割のアサヒの「スーパードライ」は、その影響から免れないが、キリンは主力の「一番搾り」は味の刷新が効いて販売数量で前年比0.3%減と大健闘している。

 一方、同21.4%増と拡大が続く第三のビール市場では、商品投入に出遅れたアサヒに対して、シェア4割の「のどごし生」を軸にキリンは14.9%も販売数量を拡大、消費者の節約志向の波に見事に乗っているのだ。

ノンアルコールの大ヒットで問われる<br />アサヒvsキリン「ビール首位争い」の意義
キリンの大ヒット商品「キリン フリー」はアルコール成分ゼロなので、「ビール類」の統計には含まれない。

 もう一つが、昨年4月に発売して大ヒットしたノンアルコールビールの「キリン フリー」の存在だ。発売1カ月で年間発売予定数を売り切ってしまったほど大ヒット商品で、社会現象にまでなったフリーはいまやキリンの主力商品の一つ。だが、ビールの棚に並んでいるビールテイスト飲料といえども、アルコール成分ゼロなので当然「ビール類」の統計には含まれない。昨年のフリーの販売量は400万ケースで、これを含めてみれば、販売数量でもキリンがアサヒを380万ケース上回り首位となる。

 もっとも、ビール各社は経営課題としては国際展開に軸足を置き始めており、国内でのケース単位のシェア争い自体が意味をなさなくなっている。予定通り首位のキリンと3位のサントリーが統合すればシェアは固定化され、順位争い自体が消えることとなる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木豪)