好況時に大量採用したバブル世代がまもなく50歳代となり、その処遇が大きな経営課題に浮上している。就くべきポストがなくやる気を失っている彼らは、放っておくと単に金を食うだけの「お荷物」社員になりかねない。

 今、職場で働かないオジサンへの不満が高まっている。中でも被害が大きいのが、周囲に攻撃をしてくるケースだ。

 契約先の企業で産業カウンセラーを務める見波利幸・エディフィストラーニング主席研究員の元に、ある日、沈鬱な表情をした関本賢さん(仮名、40代)が訪れた。

 関本さんは企画・販促のセクションの課長だ。つい最近、定年後再雇用のシニア社員が配属されてきた。それが不幸の始まりだった。この社員は、以前に部長職も経験しており、関本さんにとっては上司格に当たる人物だったのだ。

 日頃は体を動かさないのに、企画会議では「そんな奇抜な企画、本当にできるの?」「費用が掛かり過ぎる!」などと、ことごとく部員の意見にダメ出しをし始める。

 ある日、ダメ出しを連発するシニア社員に、関本さんは少し強い口調で言った。「自分でアイデアを出さない人が、他者の意見を否定しないでください」。

 するとシニア社員はこう言って逆ギレした。「平日に休みを取ったりしないで自分がアイデアを出せばいいじゃないか」。関本さんが、少し前に娘の学校行事のために、1日だけ休みを取ったことを批判してのコメントだ。

 悔しさと、強い怒りが込み上げてきた。関本さんにとっては、そのシニア社員が最大のストレスとなっている。見波主席研究員によると、ここ1〜2年、職場でのシニア社員の振る舞いに関する相談が増えているという。

 なぜ、働かない問題児のオジサンが増えているのか。

 新卒を大量に一括採用する一方で、解雇は難しい。加えて、労働市場の流動性が低く中高年の転職も活性化していない。そのため、入社した会社で定年まで働く社員がほとんどだが、社内でのスキルアップ教育はほとんどなされない。その結果、〝使えない〟オジサンが社内に滞留していく。これは日本特有の構造問題といえる。

目標があれば人生は変わる!
自分自身のエベレストを持とう

 今は「働かないオジサン」とやゆされる人たちも、入社した当時は会社や社会に貢献しようと希望に燃えていたはずだ。それがいつしか目標を見失い、「お荷物」となってしまっている。

 昨年5月、80歳という世界最高齢で通算3度目のエベレスト登頂を果たしたプロスキーヤー・冒険家の三浦雄一郎氏が、迷えるシニア世代に向けて熱いメッセージを語る。

「53歳のときに世界七大陸最高峰からのスキー滑降を成し遂げた後、「燃え尽き症候群」のようになって目標を見失ってしまった。60歳を過ぎ、気付くと完全なメタボリック症候群になっていました。

 そんなとき、私を奮起させたのが父・敬三と息子・豪太の存在です。父は白寿(99歳)でのモンブラン大氷河の滑降を目指して、豪太はフリースタイルスキーのモーグル日本代表として厳しいトレーニングを積んでいました。

 このままでは終われない。おやじがモンブランなら、俺はエベレストだ──。こうして70歳でエベレストに登るという目標を定めたんです。すると、日常の全てが一変しました。この一歩がエベレストの頂上につながっている。歩く一歩一歩の意味が変わってきたんです。

 幾つになっても、目標や夢を持つことが大事です。私にとってのエベレストのように、誰にでも、「ああなりたい」という自分自身のエベレストがあると思います。今の自分がその夢につながっているという想像力を持てれば、毎日が充実したものになるのではないでしょうか。

2013年5月23日、80歳の世界最高齢でエベレストの頂上に立った三浦雄一郎氏 写真提供:ミウラ・ドルフィンズ

 85歳で、世界で6番目に高いチョ・オユー(8201メートル)の山頂からスキーで滑降する。これが次の目標です。

 実は昨年の登頂で、「世界最高齢のエベレスト登頂」と「80歳を超えて8000メートルの高度を超えたこと」の二つのギネス記録を頂きました。次は、85歳で再び8000メートルを超えることに挑戦します」

 三浦氏の冒険は、まだまだ続く。