この稿が出る頃には下火になっていることを願う「デング熱」。ネッタイシマカやヒトスジシマカに媒介される「デングウイルス」による感染症だ。国立感染症研究所のホームページ、関連文献から情報を紹介しよう。

 デング熱は媒介する蚊が生息する熱帯・亜熱帯地域──東南アジア、中南米などで発生し、これまで本邦では海外渡航者の感染が報告されるだけだった。しかし今回は海外渡航経験がない人の感染が報告され、問題となっている。

 デング熱には非致死性の「デング熱」と、重症型の「デング出血熱」「デングショック症候群」の二つの病態がある。感染後(媒介する蚊に刺されてから)2~7日の潜伏期間を経て、突然の発熱で発症。頭痛や筋肉・関節痛などが生じる。この時点では風邪かな? と思うことが多いだろう。ただ、発熱後3、4日経過すると胸や腹部に発疹が出現。手足や顔に拡がった後、1週間ほどで回復する。初感染の場合は、おおむねこうした経過をたどる。

 一つ注意してほしいのは、痛みや熱に対して市販の解熱鎮痛薬を服用する際、アスピリンは避けること。感染で生じる出血傾向を助長する可能性があり、使用禁忌なのだ。市販薬では、アセトアミノフェンが勧められる。

 デング熱で警戒するべきなのは、患者のごく一部、あるいは再感染時に重症の「デング出血熱」を生じること。重症化すると平熱に戻る時期に出血傾向が生じ、体液量のバランスが崩れてショック状態を引き起こす。時には死亡に至ることもある。ただし日本では適切な輸液によるバランス改善が可能なので、すぐに病院を受診することが肝心。その際、蚊に刺されたか否かを伝えると処置が早い。

 今のところ治療法は対症療法のみ。予防に越したことはない。蚊に警戒が必要な時期は案外長く、11月下旬までは油断禁物だ。活動時間は昼間で、特に夜明けから数時間と、日没前の数時間がピーク。アウトドアでは長袖・長ズボンを着用し、肌が露出する箇所には虫よけスプレーを使おう。すでに海外で感染経験がある方は、できる限り再感染リスクを避けたい。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)