年間300億円弱といわれるランドセル市場に異変が起きている。従来の「軽量化・コンパクト化」路線から一転、「大型化」という新しいトレンドが生まれつつあるのだ。

 口火を切ったのはイオンだ。8月上旬、満を持して発売した今年の新製品は、通称「かるすぽ」。軽くてA4サイズのクリアファイルが折れ曲がらずにそのまますっぽり入る、というのが最大の売りだ。

 「ここ1~2年でランドセルのサイズに対する不満の声が増えていた」と、イオントップバリュ衣料商品企画開発部の荒木伸吾氏は、A4クリアファイルが入る大きさにこだわった背景を説明する。

 最近では、学校の連絡書類のほとんどがA4サイズで、そうした書類をA4クリアファイルに挟んで児童に持ち帰らせる学校が多い。ところが、多くのランドセルは、A4サイズの教科書はぎりぎり入るものの、周囲にマチのあるクリアファイルは、斜めにするか、縦も横も折り曲げないと入らない。

 さらに、2011年度から「脱ゆとり教育」という流れのなかで、小学校の教科書の厚みが25%も増えることが明らかになっていた。こうしてイオンは、ランドセルの大型化を決断した。

 商品化にあたっては、大型化したぶん重くならないよう、300ものパーツを一つ一つ見直し、強度を保ちつつ徹底的な軽量化も追求した。A4クリアファイルのサイズを訴求した広告も寄与し、9月中旬までの累計で、昨年の倍のペースで売れている。

 5年前からクリアファイルよりさらに大きい、A4の紙の綴じ込みファイルが入る大きさのランドセルを販売してきたコクヨでは、大型化のトレンドが追い風となり、限定モデルはすでに予約が7割に達するなど販売は好調だ。

 一方、「天使のはね」の通称でおなじみのランドセル業界のガリバー、セイバンは、たった1枚のA4プリントを収納するためにランドセルを大きくする必要があるのか、と新たなトレンドに疑問を呈する一方で、「大型化の波に完全に乗り遅れている」(業界関係者)という見方もあった。

 そこでセイバンも、新たな切り口で販売を大きく伸ばしているイオンなどの「新勢力」に対し、対抗策に打って出た。「天使のはねファイル」の開発だ。通常サイズのA4クリアファイルを同社のランドセルにぴったり収まるように、心持ち小さくするという「逆転の発想」である。10月からランドセルとセットで販売する予定だ。

 ランドセル業界は古くからのメーカーが多く、保守的だといわれてきた。そこに投げ込まれた「大型化」という小石が大きな波紋を広げ、業界は「軽量コンパクト」の旧勢力と「大型化」の新勢力に割れて大きく動き始めた。新旧対決は、これから本番を迎える。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 前田 剛)

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