樫原弘志
クロマグロの漁獲枠「倍増」案で、日本が国際社会に総すかんを食らった悲しい事情
北海道・釧路市で行われた太平洋クロマグロの漁獲量をめぐる国際会議が行われた。漁獲枠を大幅に増やす日本の提案は受け入れられなかった。太平洋クロマグロの最大の漁獲国であり、最大の消費国でもある日本は、なぜ交渉の主導権を失ってしまったのだろうか。

クロマグロは漁獲制限の対象になっていて、漁業者はその枠内でしかとってはいけない。国が大枠を決めて配分するが、天下り先を優遇しているという批判もある。売って換金することも可能で、収入に直結するだけに配分を誤れば争いを生む。

マグロの最高ブランド「大間まぐろ」に激震が走っている。一つは産地表示問題、もう一つは昨年秋に表面化した漁業法違反の疑いのあるヤミ漁獲だ。よその場所で水揚げしたマグロまで「大間まぐろ」として出荷されている疑惑も生じていて、農林水産省や東京都は監視を強めている。ブランド崩壊の危機を感じた大間漁業協同組合は地域団体商標「大間まぐろ」の定義(商品の内容)を見直す。漁獲枠の外でこっそり捕ったマグロの量は調査のたびに増え、筆者の推定では漁協ごとの漁獲上限量を2021年度は超過している。過去にさかのぼって解明すれば、膨大な数量に上るだろう。

熊本県産アサリの産地偽装問題で明らかになったのは、「産地証明書」が偽装の道具として使われたという事実である。生産量が激減しても熊本産というブランドを欲しがる消費者の期待や流通業界からの要求が、虚構をはびこらせていたのかもしれない。こうした問題はアサリに限ったことではない。最近、回転ずしチェーンのスシローも国が認めた漁獲枠外のマグロを食材に使用したのではないかという指摘を受けた。外食産業の食材調達も注意を怠れば、違法漁獲物を利用したり、表示を間違えたりするリスクにさらされているのだ。

青森県は大間産クロマグロの漁獲未報告の疑いで2021年12月23日、JF大間漁協に漁業者を個別に呼び出し、事情聴取した。たくさんの業者が集荷を競う大間では、漁協とはいえ漁獲の実態をつかみ切れていない。大間沖での漁獲をうたう漁協の商標「大間まぐろ」も漁場や水揚げの実態と大きくずれていて、監視を怠ったり、運用を誤ったりすると、産地偽装を助長しかねない危うさを秘めている。

マグロの最高級ブランドとして知られる青森県の大間産クロマグロのヤミ漁獲が明るみに出た。地方の市場に大量出荷されたことを不審に思った水産庁が青森県と大間漁業協同組合に調査を指示したのだ。以前から漁獲報告より流通量が多いと噂されていた。資源保護のため国際合意に基づく漁獲制限が続く中、ヤミ漁獲に対する風当たりは強い。
