会社と争う人が増えている。しかし、第三者はうっかりその間に入ってはいけない。汚れ役を嫌う会社の上層部に利用され、ヘタをすると「返り血」を浴びることがあるからだ。
今回は、出世の遅れに悩んでいた中堅プロパー社員が、上司の命令により、会社と対立する問題社員の排除役を担わされ、結局最後は本人が知らないまま、“スケープゴート”にされていく様子を紹介する。
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■今回の主人公
内田 昭二 仮名(38歳 男性)
勤務先: 医薬品メーカー(上場企業)の子会社(従業員150人)。上層部は親会社からの出向者で占められている。内田は同社のプロパー社員であり、営業部に所属。会社の業績は親会社の支援もあり、これまで順調に成長をしてきたが、昨年から業績に陰りが見え始めている。そんな矢先に、営業部内で問題が起きた。
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(※この記事は、取材した情報をプライバシー保護の観点から、一部デフォルメしています)
「命令」どおりの懐柔策
「……言いにくいんだけど……やはり、まずは社内で話し合うことだと思うんだよな」
「……」
「君にも言い分があるんだろうけど、坂下常務とか、東部長の考えもあると思うよ」
「……」
「だから、まずは俺に相談をしてほしい」
「……」
内田は、黙り込む吉村の態度にしびれを切らして、何かを言おうとした。しかしその時、上司である部長の東から受けた“命令”を思い起こし、黙った。
しばらくの沈黙のあと、吉村が話し始めた。
「なぜ、内田さんに相談をする必要があるのですか?」
内田は、返答に困った。たしかに、吉村の問いは正論である。自分は管理職ではなく、吉村の上司でもない。しかし、部長の“命令”どおり、振る舞った。
「そりゃあ……一応、俺はプロパー社員の中では一番年上だし、社歴も長いし……」
「要は、“会社の話を外に持ち出すな”と言いたいのですね」
内田は、意外だった。吉村が、まるで別人のようだったからだ。誰かから教え込まれているかのように、絶妙のタイミングで切り返してくる。
内田は、苦し紛れに答える。