日立製作所が上場子会社5社を完全子会社にすると発表し、事業の絞り込みによる「脱・総合電機」という方向を打ち出しました。日立製作所は、前期に国内製造業で最大の7873億円の最終赤字に陥り、経営再建を急ぎ利益流出に歯止めをかける狙いもあるようです。まず、利益流出に歯止めをかけるという意味を探ってみましょう。
利益重視の経営に
会計基準の変化が水を差した
完全子会社にするということは、子会社が稼ぐ純利益をすべて日立製作所の連結当期純利益に加えることができるということです。09年3月期の連結当期純利益は、親会社の純利益を示しています。親会社以外の株主の利益は少数株主利益と呼んで、連結当期純利益から除かれています。少数株主から株式を買い取り、完全子会社にできれば、5社分の少数株主利益が減少し、連結当期純利益はかさ上げできるのです。
しかし、日立製作所は米国基準を採用しています。米国基準では、2010年3月期から、純利益の定義が変更になり、小数株主利益を含めた利益を純利益と定義し、純利益の後に、親会社に帰属する利益と少数株主に帰属する利益に分けて表示する形式に変更になりました。この結果、新しく定義された純利益のもとでは、純利益のかさ上げを狙った完全子会社化は、意味がなくなります。
この会計基準の変更は、従来の当期純利益をもとに株価を評価する株価収益率(株価÷1株当たり当期純利益)や、ROE(当期純利益÷自己資本)のような当期純利益重視の指標が、時系列で比較しにくくなり、使いにくくなります。
さらに米国基準や国際会計基準で導入されている包括利益も、経営の舵取りを大きく左右します。純利益に有価証券やデリバティブの未実現利益、為替換算差額などを加減して求める利益で、今後、企業評価の主流になる可能性があります。持ち合いなどで株式を大量に保有する日本企業は、2001年に時価会計が導入されて以来、株式保有の見直しを進めましたが、さらに拍車がかかり、業界の再編劇につながる可能性があります。
利益を重視した経営は、利益をどう考え、定義するかで左右されるため、会計基準の変化との戦いでもあります。会計基準の変化は、業績評価を何でするべきかという問題を引き起しました。経営判断にも影響を与え、設備過剰を引き起す原因にもなってきました。この「計数のワナ」を、前回に引き続き検証してみましょう。