京セラ創業、KDDI躍進、JAL再建――稀代の名経営者、稲盛和夫は何を考えていたのか?
2つの世界的大企業、京セラとKDDIを創業し、JALを再生に導きますが、稲盛和夫の経営者人生は決して平坦なものではありませんでした。1970年代のオイルショックに始まり、1990年代のバブル崩壊、そして2000年代のリーマンショック。経営者として修羅場に置かれていたとき、稲盛和夫は何を考え、どう行動したのか。1970年代から2010年代に至る膨大な講演から「稲盛経営論」の中核を成すエッセンスを抽出した『経営――稲盛和夫、原点を語る』から一部を特別に公開します。(初出:2023年11月12日)
「結果を出す人は何が違うのか?」稲盛和夫の答え
田舎の大学を卒業し、徒手空拳でベンチャーを創業した自分のような者が、一流大学を卒業して大企業に就職した人たちに伍して仕事をし、人生を生きていくにはどうすれば良いのかということを、常々考えていました。同時に、それを誰にでもわかりやすいように表すことができないかとも考え、ある方程式に至りました。
それは、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」というものです。
人間が生まれてから死ぬまでにつくり上げる人生の結果、または仕事の結果は、その人がもつ「能力」に加えて、その人がどのくらい「熱意」をもって人生や仕事に取り組んだのか、さらには、その人がどういう「考え方」で人生を歩み、仕事に向かってきたのかという、三つの要素の積になると考えたのです。
リーダーにはまず「能力」が必要です。リーダーは戦略、戦術を考えていかなければなりませんし、仕事には専門的な知識が求められるわけですから、どうしても「能力」が要ります。
また、この「能力」とは頭の良さだけを言うのではありません。健康で頑健でタフな仕事ができるという肉体的能力も、「能力」の一つです。リーダーには、そのような高い「能力」が求められます。
「ここ」で差がつく!
しかし、中には「能力」はあるけれども、「熱意」があまり感じられない人がいます。特に有名大学の出身者にまま見られる傾向ですが、自分は頭がいいと思っているものですから、真面目に一生懸命努力をしたがらないのです。「頭の悪い人は朝から晩までがんばっているけれども、自分は頭がいいから、あれくらいのことは簡単にできる」と考え、あまり熱心に仕事をしません。一方、その反対に、たとえ頭の出来は良くなくても、そのぶん朝から夜遅くまで一生懸命に身を粉にして仕事に励む、そんな「熱意」にあふれた人もいます。
この「能力」と「熱意」は、〇点から一〇〇点まであり、さらにはそれが足し算ではなく、掛け算で人生に影響を与えると私は考えています。そうすれば、優秀な大学を出た、頭のいい人の「能力」は九〇点くらいで、田舎大学出身で能力はあまり高いとは思えない人の「能力」は六〇点くらいになるのでしょう。また、たった一度の人生を、ただぼやっと過ごしても意味がない、誰にも負けない努力を払い、一生懸命生きてみたいという人の「熱意」は九〇点になります。
一方、朝から晩まで働くのはばからしい、たった一度の人生ならおもしろおかしいほうがいいと、刹那的に生きる人の「熱意」は三〇点になります。すると、点数はどうなるでしょうか。