財源は、厚生年金適用の企業が担う「こども子育て拠出金」とする。標準報酬月額と標準賞与額の1000分の1.5だった拠出率を、この4月から同2.0に引き上げ、その分800億円を回す。雇用保険の拠出金率の引き下げを伴うので企業負担は変わらない。予算内での新事業なので、内閣府は外部委員などを交えた審議会や検討会を経ずに思い通りに決めることができた。

 大きな議論にならずに突破できたのは、国の懐を直接痛めずに財源を確保できたことも大きい。

市区町村を「飛ばす」ことができた理由

 そして、何よりも画期的なのは、保育所の開設、運営にあたって市区町村を「飛ばし」たことだろう。新法の保育・子育て支援法と児童福祉法24条では、保育所の設置・運営の責任者は市区町村自治体としている。市区町村が関わらない保育所を国が積極的に推進するのは保育制度の基盤を揺るがしかねない。社会保障制度のルール外しに近い。

 なぜ、既存のルールを突破できたのか。従来保育園を所管してきた厚労省ではなく、内閣府が主導し立案したから、という声が聞こえる。サ高住が、厚労省でなく国交省の住宅政策からスタートしてきた経緯とよく似ている。「常識」を覆す斬新な制度は、所管外のフィールドから生まれてくるようだ。

 サ高住は集合賃貸住宅ではあるが、その半数は、デイサービス(通所介護)か訪問介護事業所を併設しており、特養代わりになっている。国は通所介護と訪問介護などを組み合わせた「小規模多機能居宅介護」という24時間のきめ細かなサービスを併設したサ高住を「拠点型サ高住」と昨年度の補正予算で命名。従来より20%上乗せした1200万円の助成金を投入した。この措置が2016年度予算にも引き継がれている。

 小機後多機能を併設したサ高住は、入居者にとっては、実質的に従来の施設と大差ない。機能的には特養に極めて近い。従来の特養を「低所得者・中重度者」向けに特化させつつ、入所系施設の裾野拡張策と言えるだろう。

 というのも、特養の開設者は自治体と社会福祉法人に限定されており、その能力ではとても待機者解消は無理と判断したからだ。

 日本の社会保障制度は、介護や保育の担い手を社会福祉法人としてきた。介護保険で企業参入が認められたが通所や訪問系に限られ、入所系は社福法人に独占されたまま。介護保険制度の枠以上の利用料を払える高齢者には有料老人ホームもあるが、多数派ではない。

 社福法人への依存体質が介護よりもっと強いのが保育分野である。介護保険法施行時に社会保障制度の構造改革の一環として、企業の認可保育園参入が認められたにもかかわらず、いまだに企業立認可園はわずか3%に止まっている。社福法人の牙城は一向に崩れない。

 介護も保育も、利用者が限定されていた時代には社福法人任せで事足りていたが、今や両分野とも大多数の普通の国民が必要とする時代に変わった。社福法人は納税義務を免除された日本特有の特殊な法人である。マネジメント能力に欠ける社福法人は時代の遺物になりつつある。介護も保育も一般的なサービス業に近付きつつあり、民間企業の出番である。サ高住へ舵を切った介護政策は歴史的な必然性があった。

 遅ればせながら、やっと国は企業主導型保育事業にたどり着いた。新事業だけに力の入れようも格別だ。安倍政権は新三本の矢として「合計特殊出生率1.8」を目標数値として掲げる。出生率を高めるには子育ての不安を解消しなければ、ということで保育園の増設に乗り出した。

 首相が保育園増設にこれほど注力するのはかつてないこと。2017年度末までに10万人分の保育園増設を打ち出した。

 その半数5万人分を企業主導保育所で満たすという。自治体や社福法人に見切りをつけた政策判断と言えよう。