まず10月20日に、41ものガン患者団体が記者会見を開き「事実をわかりやすく伝えるよう冷静な報道」を求め、国のガンワクチン向け臨床研究の予算が削減されないよう訴えた。22日には、日本癌学会と日本がん免疫学会が朝日の記事を「大きな事実誤認に基づいて情報を歪め、読者を誤った理解へと誘導する内容」との抗議声明を発表。

 また27日には、帝京大学の小松恒彦・帝京大学教授を発起人代表とする「医療報道を考える臨床医の会」が発足し、記事の訂正・謝罪などを求める署名活動を開始した。29日には、日本医学会が「事実を歪曲した朝日新聞ペプチドワクチン報道」と題して、前述した2つの学会の抗議声明の支持を表明し、中村教授の人権侵害として朝日を非難した。

 一方、朝日側は「記事は薬事法の規制を受けない臨床研究には被験者保護の観点から問題があることを、医科研病院の事例を通じて指摘したもの」とのコメントを繰り返してきた。11月10日になって、朝刊17面の「オピニオン」(通常は読者や有識者の声を載せるコーナー)で、前述の経緯などとともに、福島雅典・先端医療振興財団臨床研究情報センター長のインタビューを掲載した。趣旨は、医師主導の臨床研究と薬事法下にある治験の二重基準は改めるべき、というもので、聞き手は一連の記事を書いた編集委員でなく、東京本社の科学医療エディター(部長級)が務め、“客観性”を押し出している。

 これら朝日の“反論”に、医科研側は不快感をあらわにする。「当初の記事は、どう見ても日本の臨床研究の仕組みを批判する主旨ではなかった。議論のすり替えだ」(医科研総務)。両者の意見対立は一向に収まりそうにない。

 翻って、臨床研究と治験の二重基準の問題性は、指摘されて久しい。この記事を機に一本化に向けた議論が進むかは未知数だが、ガンワクチンを巡っては明らかなマイナスのダメージが広がっている。

 たとえば、朝日が取材して回ったガンワクチンの臨床病院では「患者のエントリー数が、過去3ヵ月で従来より3割減少しており、研究の停滞にもつながりかねない」と中村教授はいう。また朝日報道の直後、10月21日に内閣府総合科学会議で実施された来年度の概算要求における科学・技術関係施策の優先度判定において、318事業のうち2件のみが最低評価(実施すべきでない)を受け、その1つが厚生労働省の「ガン治療ワクチン開発(29億円)」だった。11年度予算における1兆円超の「元気な日本復活特別枠」のヒアリングが今週始まるが、「ガンワクチンを含むライフサイエンスが含まれるかは微妙な情勢で、報道が影響しないとは言い切れない」と民主党関係者は語る。

 ちなみに、記事中で名指しされたオンコセラピー社や中村教授は、来週にも名誉毀損による損害賠償請求を起こす見通しだ。朝日の再反論に注目が集まる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柴田むつみ)

週刊ダイヤモンド