「ころぶ」「雨に濡れる」
バイクの二大弱点をどう克服するのか?

 ヤマハ・トリシティはフロント二輪の三輪スクーター。前二輪が傾くようにすることで、旋回/制動時の安定性を、従来の二輪オートバイとは別次元のレベルにまで高めた。前輪の片方が濡れたマンホールや浮き砂で滑ってしまった場合でも、もう片方が路面をしっかりとらえて難なく通過できるのだ。

 おかげで、「ころぶ」というバイクの弱点を大幅に克服できた。サーキットでコーナーの限界速度に挑むというような状況でない限り、後輪なら多少滑っても回復できるから、バイクがふつうに走っていて転倒しかねない可能性の芽をかなりのところまで摘むことができたのだ。ヤマハはこれをLMW(Leaning Multi Wheel)テクノロジーと名づけ、今後の事業戦略の重要ポストに位置づけている。

 後輪が一輪というレイアウトにより、既存二輪車のパワーユニットを転用できるメリットもついてきた。おかげで、トリシティ125は画期的な三輪スクーターでありながら、希望小売価格35万6400円(税込み)という競争力のある価格を実現できた。

 この三輪というあり方に対して、国内バイクコミュニティの反応は賛否両論だった。トリシティの旋回制動性能には絶讃が相次ぎ、加速もきびきびしていて合格点という声が多かったが、国産同クラスより30kgほど重い152kgという車両重量と、価格の割高さが、ライダーにはどうしても目についてしまうのだ。「俺は慣れているから二輪スクーターで充分」と考える人も少なくなかった。

 だが、トリシティ125は、欧州や東南アジアを含めて世界中で売られているモデルだ。海外からはまた違った声も届いてきていた。

「興味深いのは韓国からの声です。ソウルなどの都市部にはかなり入り組んだ狭い路地も目立ち、警備会社が一報を受けて急行する場合に、四輪車では近くまで行けずにバイクで出動することも多いそうです。ですが韓国の冬は寒さが厳しく路面凍結も珍しくないですし、荒い運転のドライバーも比較的多いようで、出会い頭のパニックブレーキもけっこうあるそうなんですね。そんなヒヤリとする場面でも、トリシティなら難なく乗り切れる。そんな話を同業者から聞いて、じゃあうちも導入してみようと評判が口コミで拡がり、警備業界やデリバリー業界を中心に人気になっているようです」(ヤマハ発動機 LMW開発部グループリーダー 高野和久氏)

ヤマハ発動機の高野和久氏と「トリシティ」。155は9月に欧州で発売予定だ

 いかがだろうか? 過酷な使用環境でヤマハLMWテクノロジーの真価が実証され、評判が口コミで拡散したわけだ。そこから、三輪スクーターの可能性が見えてこないだろうか?

 9月に欧州で発売予定の「トリシティ155」は、125発売からの2年間で世界から寄せられた声を取り入れ、改良に生かしている。ハンドルをラ バーマウントにしてエンジンの振動を低減したことや、DC電源ソケットを備える蓋付小物入れをつけたことだ。「見た目は125とあまり変わらないかもしれ ませんが、中身は別物です」(高野氏)とのことだ。