ある秋の夜。午前1時15分、東京湾アクアライン。制御系コントローラー・SIドライブはSモード。水平対向型四気筒・型式EJ20は6000rpmを過ぎても五臓六腑を突き抜けるようなトルクとパワー感が続く。赤いSTIロゴが刻まれたドライバーズシートに心身が圧着される。これぞ、まさに人車一体感。「今、生きてる」と思える瞬間だ。
その直後、前方に低速走行のクルマを確認。右足のアクセレレーターを深く踏み込む。8000rpmのレブリミッターをタコメーターのスパイ針が直撃。激しく点滅するシフトアップインジケーターを尻目に、冷静を装いながら手首で“コクリっ”とクイックシフト。スバルSTI 4ドアは未知の加速領域に突入した。
すると…、聞こえてきた。トンネルの先の闇の彼方から聞こえて来た。「♪ざんこくな、てんしのよぉに、しょうねんよ、しんわに…」(「新世紀エヴァンゲリオン」メインメーマ「残酷な天使のテーゼ」、歌/高橋洋子、作曲/佐藤英敏、作詞/及川眠子、編曲/大森俊之)。
スバルこと富士重工業と、アニメファンから神話的存在として崇められている、あのガイナックスが手を組む。
2010年9月28日、スバルxガイナックス・アニメーションプロジェクト公式ウエブサイトで、ティザーサイト(予告編)がオープンした。そこには、登場キャラクターたち勢揃いのシルエットが掲げられた。それを受けて、スバルファン、自動車関係者、そしてアニメファンのなかで、多くの人の頭に浮かんだのは「STI」、「エヴァ」、「WRC」、「初号機」、「ターボ」といった「メカメカしい記号」であり、冒頭のような世界であったろう。
ところが、同プロジェクトの実態は大きく違っていた。
2010年11月1日、ティザーサイトで変化が起きた。公開された作品タイトルは、なんと「放課後のプレアデス」。シルエットのなかから登場したキャラクターに「クルマっぽさ」のカケラもない。そこにいたのは5人の少女たちと謎の生物の合計6体。少女たちは、魔女っぽい風貌の「ななこ」を筆頭に、女子中学生風の「あおい」「すばる」「いつき」「ひかる」だ。同作品46秒間の予告動画は、音声なし。時代設定は現代のようだ。背景の静止画から感じ取れる雰囲気では、そこは学校の部室か、それとも田舎町のアパートの一室なのか、とにかくクルマが登場する気配が全く感じられないのである。
いい意味で、ユーザーに対する「裏切り」は、いかにもスバルっぽい演出だ。こうしたノリの仕掛けを、メカ好きのスバルファンは喜ぶものだ。だが、それがスバルの真意なのか?スバルは一体、ガイナックスとアニメで何をしたいのか? その答えを求めて、筆者は東京・新宿の富士重工業本社に向かった。