金融政策だけで物価上昇を目指すのは
至難の業である

 総括的な検証の中で日銀は、これまでの金融政策は名目金利低下、物価上昇期待の引き上げを通して、経済を刺激も、阻害もしない"自然利子率"の低下以上に実質金利を押し下げてきたと評価した。

 しかし、現実の問題として、わが国の消費者物価上昇率は4ヵ月続けてマイナスだ。2014年第2四半期以降、GDPギャップもマイナスであり需要は依然として弱い。つまり、名目金利が低下したとしても、需要回復を基点とした物価上昇は見込みづらい。

 加えて、わが国では少子化、高齢化という本源的に経済にマイナスの要素を抱えている。海外に目を転じても、中国を筆頭に需給はかなり緩んでいる。いずれの主要国でもディスインフレの状況が続き、明確な物価の上昇過程は観られない。その意味では、日銀が物価上昇の阻害要因に指摘する海外要因は今後も継続することになるだろう。

 その中で、日銀の主張するように金融政策だけで物価上昇を目指すのは至難の業だ。日銀が今回、「お金を供給すれば物価は上がり、景気は良くなる」との考え方を変えるのは必然と見るべきだ。また、サプライズ重視・短期決戦型の政策を転換し、市場とのコミュニケーションに配慮して長期的な政策運営に舵を切ったこと自体は重要だ。

 しかし、それだけで実態経済に大きなプラスをもたらすとは考えにくい。忘れてはならないことは、経済の実力である潜在成長率を高めることだ。それには、イノベーションを進めて、効率的に新しいプロダクトを生み出す努力を重ねるしかない。それは、金融政策の守備範囲ではないはずだ。

本格的な経済回復には
労働市場の改革や規制緩和などが必要

 黒田総裁自身、金融政策だけで物価目標を達成することが難しいことは分かっているはずだ。それでも金融緩和に限界がないとの強弁を続けるのは、実質金利の低下を受けて徐々にリスクテイクが進み始めたとき、金融政策を通してその動きを後押ししたいからだろう。

 金融機関への配慮、今後の追加緩和の可能性を受けて、銀行株などには一時的に持ち直しの動きが出た。しかし、それが持続的な株価上昇につながるとは想定しづらい。長短金利の操作が市場を混乱させないかなど確認すべき点も多く、金融政策の動向は注意深く見守るべきだ。

 わが国経済を本格的に回復過程に復帰させるためには、労働市場の改革や規制緩和などによって民間企業の活力を高めることが必要不可欠だ。既に日銀が主役を務める局面は終わった。今回の日銀の決定はそれを明確に示している。