こうしたわずかな工夫でパンチ力が一変するのは、鎖骨が胸骨と上腕骨をつなげる要の場所に位置しているからです。ここを起点にすることで、腕力だけに頼った「手打ち」から、体幹と腕が連動した重いパンチに変化するのです。
いわゆる「腰の入った」パンチが打てるボクサーは、トレーニングをする中で鎖骨を使うことに長けていったのでしょう。
腰が入るといっても腰だけを使っているわけではなく、骨を介して体の動きのすべてがつながっています。そのつながりの要の部分に鎖骨が位置しているため、ここを押さえるだけでパンチが一変するのです。
この数年、スポーツの現場で体幹トレーニングの重要性が語られるようになりましたが、体幹をただ鍛えただけでパフォーマンスがアップするわけではありません。
それどころか、一般的に知られている体幹トレーニングのメニューではかえって体を固めてしまい、可動域が狭められる恐れがあります。
これは腹筋運動をしたり、腕立て伏せをしたりする場合も同様です。
腹筋運動や腕立て伏せといった反復動作によって筋力アップを図ると、確かに見た目はたくましくなりますが、体の連動性が断ち切られ、体幹を思うように活用できなくなります。その結果、腕力だけに頼った無理の多い動きにつながりやすくなります。
こうしたリスクを回避するには、体幹を固めるのではなく、ゆるめていく必要があり、ここにも骨の使い方が深く関わっています。
鎖骨はその1つですが、ほかに重要なのは肩甲骨、肋骨、骨盤などです。
体の重さを利用するためには、これらの骨を連動させ、体幹全体をしなやかに動かす必要があるのです。