日本航空(JAL)再建のカギを握る三井物産が懐疑的になっている。
JALが策定した大型増資計画案のなかで、物産は引受先の筆頭に位置づけられたが、並行して交渉が進む航空貨物事業の提携話が破談の危機にあるのだ。
「“付き合い”でカネは出さない。引き受けるか否かは、明確な“追加リターン”のみが判断材料」と物産首脳は言い切る。新たなリターン材料である貨物事業提携が固まらなければ、代理店を務めるエアバスの航空機受注でもない限り、物産は今春実施の増資計画から降りることになりそうだ。
JALの航空貨物事業は売上高約2200億円で国内業界首位(2006年度)。JALは、同事業を分社化して共同出資を募るべく、物流事業の強化を進める物産と昨年から交渉に入った。
物産が理想とする出資比率はJAL51%、物産49%。300億~500億円規模の出資に応じる構えで中身を詰めてきた。だが今年1月、資金集めに焦るJAL側が、三菱商事の本格的参加を含めた分社化構想を急に提示し、これに物産は不信感を抱いた。
貨物航空会社のオペレーション機能獲得が出資の目的である物産は、「運輸業界、取引関係先などから数パーセントを募る調整はあっても、主導権を握る第2位株主のポジションは譲れない」(同社首脳)。商事がオペレーションに参加したり、高い比率で出資するようであれば、JALとの連携を深追いせず、貨物航空会社を持つ日本郵船グループや佐川急便グループ、貨物事業の強化を打ち出す全日本空輸(ANA)、あるいは外資航空会社に交渉先を変える考えだ。
JALは今期、債務の株式化(DES)を銀行団に要請したが受け入れられず、欧州での起債もスプレッドが大き過ぎて断念した模様。主力取引銀行は昨年、JALの債務者区分を「破綻懸念先」に引き下げたため、追加融資に応じにくくなっている。融資額が最も大きい日本政策投資銀行をはじめ、各行とも主導的な支援に及び腰だ。JALは“救世主”を求めて走り回り、取引関係が深い大手商社勢を主要引受先とする増資計画案をまとめた。
年初に明らかになった中身は、物産、商事、双日に各200億円、丸紅、伊藤忠商事に各100億円の増資を募り、主力取引行である政投銀、みずほコーポレート銀行、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループへの要請分を含め総額1500億円規模の増資を実施するというものだ。
昨年末から今年1月にかけて各社に増資引き受け要請をしており、2月中旬までに各社から回答を得て、今期中に実施する計画。3月上旬に発表する新中期経営計画の目玉となる。
ただし、物産が「否」と判断すれば、“横並びの付き合い”を意識した他の商社からの返事も厳しいものとなり、増資計画は振り出しに戻りかねない。そうなると、JAL経営陣主導による再建策は尽き果ててしまうが、抜本的な再建支援に本来乗り出すべき銀行団の尻には、ようやく火がつくかもしれない。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 臼井真粧美)