はっきりと言われたことはないですが、今思えば、鈴木さんは私に「聞いたことや見たことを、正確に言葉や文章にして、第三者に伝える能力がある」と見いだし、それを伸ばしてくれたのかもしれません。

 その経験は今に生きています。プロデューサーとは、映画やテレビの作品を企画し、資金やスタッフを集め、作品を顧客の元に届けるのが仕事です。映像の仕事なので、ビジュアルが中心だと思われるかもしれませんが、本当に大事なことは、やはり言葉の扱い方です。鈴木さんに言葉を鍛えてもらわなかったら、今の私はありません。

 その点、鈴木さんは日本一だと思います。元々編集者でもあった鈴木さんは、「こういうものを作る」と決めたら、それを言葉にして、スタッフや製作陣皆を一つの方向に向かせて、作品にし、宣伝を通して観客に届けることがとてもうまい。その間、その本質が揺らぐことを絶対に許さないのです。いつも「何が大事だったの?」ということを言い続けていました。言葉をきちんと扱えることがプロデューサーの条件であるということを、鈴木さんから学びました。

若いころに鼻っ柱を
へし折ってくれる上司が必要

──鈴木氏は、「自分を捨てろ」と言いながらも、石井さんの得意なところを見つけ、それに合った明確な役割を与え、時に強く叱りながらも、きちんとフィードバックして育てていたというわけですね。

 ええ、そうだと思います。それだけでなく、何時に出社して、出社して席についたらどうするとか、会議の席の座り方とか、お茶の出し方とか、微に入り細にわたり教えてくれました。

 上司の中には、若いスタッフにいい顔をしようとし、「君がやりたいことを言ってごらん」「それはいいね、やってみなよ」と言うにもかかわらず、実際にやると「それは違う」と言って採用しないケースが少なくありません。

 それは、優しいようでいて、すごく冷たい部下との接し方とも言えます。鈴木さんのように「君のやりたいことはどうでもいい。与えられた仕事をやりなさい」と言ってくれる上司の方が、ずっと真摯な姿勢なのだと思います。

──自分ではなく、顧客の価値に焦点を当てろというお話のようにも聞こえます。新入社員では、なかなか顧客の求める価値には気がつけません。

 そうかもしれません。鈴木さんからは、打ち合わせや会議の場で「最初に結論を言うな」と言われました。「まず相手の話を聞き、相手にとって何が得かを考え、仕事につなげていけ」、と。