よくある光景~グループ面接で大学名に一喜一憂
帝洋大の豊沼奈江は総合商社の鈴木商事が第一志望だった。
七つの海を駆け巡る商社マンになりたい。メーカーで海外勤務の多かった父親の影響もあって、子どもの頃からそう考えていた。
帰国子女ということもあり、大学入試は失敗。元々、数学が苦手な上に、国語の勉強が致命的に遅れていたためだ。結局、偏差値50の帝洋大に入学した。
それでも大学自体に大きな不満はない。図書館は充実していたし、先生も熱心な人が多かった。おかげで充実した大学生活をおくることができた。これなら自分も大丈夫だろう。
エントリーシート選考に通り、次はグループ面接。指定された鈴木商事本社の会議室に入った学生は、私を含めて5人。男子3、女子2。うん、ちょうどいい割合かも。
入室すると、面接担当者が声をかける。
「それではお名前と所属をお願いします」
左端の学生から自己紹介だ。
「はい、東京大学文学部の…」
「大阪大学経済学部の…」
「早稲田大学商学部の…」
みんな緊張しながら話をしている。次は私の番だ。
「はい、帝洋大学社会学部の豊沼奈江と申します。本日はよろしくお願いします」
よし、普通に話せた。話せたはずだ。
何もおかしくないはず、そうでしょ?
あれ?さっきまでの緊張感がない。
ふと、隣の早稲田の子を見てみる。さっきまでがちがちに緊張していたのに、今はリラックスすらしている。他の子も、だ。
東大の学生など、うすら笑いすらしている。
「帝洋なんて低偏差値大のヤツがよく受けに来たよな」
といわんばかりだ。
そう言えば、他の学生が自己紹介しているとき、顔を上げなかった面接担当者の一人は私が大学名を言ったときだけ顔を上げた。珍獣でも見るかのように。
総合商社を私のような低偏差値大の学生が受けるのはそんなに悪いのだろうか。