野田 もっと一般教養を身につけてから、経済学を学んだほうがいいのかもしれないね。

中原圭介(なかはら・けいすけ) 経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。「総合科学研究機構」の特任研究員も兼ねる。企業や金融機関への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に努めている。経済や経営だけでなく、歴史、哲学、自然科学など幅広い視点で経済動向を分析しており、予測の正確さには定評がある

中原 たしかに、その通りです。一般教養をきちんと学んだ上で経済学に進むのならいいのですが、日本の大学生は一般教養科目をサボって、専門課程に進んでから頑張るという傾向があります。だから、基礎となる土台ができていない場合が多いのです。
 以前、東大で経済学を教えている先生と対談をしたときに、「経済学には間違った部分がたくさんあるが、東大生に経済学を教えるとそのまますべてを理解してしまうから、東大生は本当に優秀である」と言っていました。もちろん、これは皮肉なわけですが……。

野田 「東大もと暗し」というやつだな。

中原 東大の先生からそういう話が出てくるというのが、今の経済学の現状であり、問題点でもあるのです。その先生は科学の分野の知見から経済学を分析しているので、経済学のおかしなところがはっきりと見えてしまうのでしょう。

野田 その先生は少なくとも、今の若者に自主的判断力がなくなっていることがわかっているんだね。

2000年前後で
世界経済の構造が大きく変わった

中原 私は、2000年以前の世界経済と、2000年以降の世界経済を意識的に分けて考えるようにしています。なぜかというと、2001年に中国がWTOに加盟して、当時13億人近くいた人口が資本主義社会に取り込まれたからです。資本主義世界が、とりわけ教育水準が高く、かつ労働力が安い中国を取り込むことによって、世界経済は全体の規模を拡大させた上に、平均成長率を引き上げることができたわけです。
 しかしその副作用として、先進国の成長率が低下していくのは避けられない状況になります。2000年以降の世界経済が全体で成長するのは、安い労働力が原動力となる一方で、安い労働力は良質といわれた先進国の雇用を次々と奪っていったからです。だから、2000年以降の世界経済については、それ以前の見方とは視点を変えていかなければなりません。
 アメリカは今では低成長だと言われていますが、これだけ物資が溢れている時代に2%成長できるというのは十分な水準であると思います。ウォールストリートジャーナルやエコノミスト誌に言わせると、2%台の成長は低い水準だということになりますが、彼らが比較しているのは米住宅バブル期の4%台の成長率なのです。無理に借金を積み重ねていた時代の成長率と比較して、今が低いというのは明らかに間違っています。
 むしろ1%台の成長でも、人々の実質的な所得が上がって生活水準が下がらないのであれば、私はそれでもいいと思います。