野田 経営者の場合は、まだ許せるよ。結局、その言い訳というのも、自分の意思決定が間違っていたことを認めているわけだから。
中原 経営者が大きな判断ミスをしたのであれば、それを教訓にすべきではないでしょうか。そもそもエネルギー資源の需給バランスが逆転する兆しは、すでに2012年には、米国のシェール企業の生産性向上によって見え始めていました。さらに2013年頃には、中国経済の減速が数年以内に深刻化することがさまざまなデータから推測できていたのです。エネルギー資源価格の暴落が起こることは、かなり高い精度で予測できていたわけです。
予測できなかったというなら、なぜ予測できなかったのかをきちんと分析して次の機会に生かしてほしいですね。私は必ずしも経営者が経済の予測に長けている必要はないと思っています。企業のなかに経済の流れがわかっている人間が少数でもいれば、経営者の足りないところを補うことができますから。
原因と結果を逆にしてはいけない
野田 僕はあまり経済評論家の本を読まないが、君の本を読むと面白いな。当たらない場合でも、誰々が言ったからという責任転嫁をしていないね。こういう現象が起こったために、自分の予想は間違っていたと述べるのが正しい姿といえるよね。
中原 前回も述べましたが、私が経済事象について説明するときは、経済学の「○○の法則、〇○理論」といったものをまったく使いません。だから、結局、自分の頭で考えて、経済の先行きを論理的かつ合理的に考えていくしかないのです。
野田 経済学で出てくる法則というのは、物理学や化学で使うのとはまったく違うね。
中原 明らかに違います。たとえば、万有引力の法則であれば、引力があるからリンゴが落ちるわけです。「引力がある」が原因で、「リンゴが落ちる」が結果になるのです。これが経済学の法則や理論になると、原因と結果がひっくり返ってしまうことがあります。「リンゴが落ちる」が原因で、「引力がある」が結果になるという類のレベルの話になってしまうのです。因果関係を逆に考えても認めてしまうのが、経済学の根本的におかしなところではないでしょうか。今の日銀の金融政策の理論的支柱となっている「インフレ期待」などは、その典型例といえるでしょうね。