野田 成長率の数字が問題ではないよね。実態がどうかのほうが大事だよ。先進経済になってくると、成長率が低くなるのは自然で、高成長率ばかり目指せば、その反動の打撃仕返しを受けるよ。1990年代の日本のように……。

中原 実は、1980年代後半のバブルの時期であっても、日本の物価上昇率は1%台半ばだったのです。少子高齢化が進む今の日本で、未だに人口が増加しているアメリカと同じ2%を超える物価目標を設定する必要性はあったのでしょうか。なぜ政府や日銀がその方向に舵を切ったのか、私にはまったく理解ができません。

野田 安倍首相はともかく、日銀総裁まで“2%目標”の達成にひどくこだわっているのは、まったく納得できない。

中原 港区などに住んでいるような裕福な人たちには、あまり悪い影響は出ていませんが、郊外や地方に住む人たちの生活は、輸入インフレによってかなり傷んでいます。だから、もう少し一般の人たちの生活実態を見て政策を決めていかなければいけないのです。そういう点では、アベノミクスを支える経済学には「心」が抜け落ちてしまっているように思います。
 欧米の主流派経済学を学んだ先生たちも、本当はクルーグマンやバーナンキの言っていることがおかしいとは思いながらも、学生たちに教えているのではないでしょうか。既存の権威を1回壊すくらいのことをしなければ、経済学は本当の意味で生きた経済のためにはならないような感じがしています。