飲み会は1次会10時まで!
「商社の常識は社会の非常識」

 今時のお客さまで、本当に深夜まで延々と飲みたいと思っている方が、果たしてどれくらいいるだろうか?よほどカラオケが好きな方は別として、商売の話を1次会で十分にして、後はお開きにしたいと思っておられる方が多いのではないかと感じる。

 商売の話につながらないだけではない。2次会や3次会に行くと、酔いが回るし、体はどんどん疲れてくるから、さまざまな問題が起きるものだ。ケンカも起きやすくなるし、翌朝は疲れて仕事にならない。挙げ句に家庭はギクシャクするというように、メリットよりもデメリットの方が、遥かに大きい。

 もちろん、「絶対に禁止」とまでは言わない。どうしても必要なときは許容するが、普段は1次会10時まで。これを「110運動(1次会まで、10時までに切り上げる)」と名付けた。

 このほかにも、細かな施策をあれこれと指示してきた。

 たとえば、東京本社ビルのすぐ脇に、東京メトロ銀座線の外苑前駅出口がある。この出口から本社ビルへ至るほんの数メートルの距離に屋根がなく、雨の日には濡れてしまっていた。そこで、I-Roofと名付けた屋根を設けて、わざわざ傘をささなくてもいいようにした。これには1億円という工事費用を要したが、傘をさすという、わずかの手間も社員に強いたくないという思いで決断した。

 また、夏の暑い日、外回りから帰ってきた営業マンは汗だくだ。そこで「クールダウンルーム」を設置し、冷風に当たって涼めるようにし、お客さまにもご利用いただいている。さらに現在、独身寮を建設している。現行の寮よりも近い「通勤30分」という条件で、健康に留意した食事を提供し、サウナやフィットネス機器も設置する。居住性の高い寮としてだけでなく、若手社員の健康意識の醸成の場ともなるように設計をした施設だ。

 実は、クールダウンルームや独身寮はともかく、屋根づくりは、思いのほか大変だった。メトロの運営会社である東京地下鉄など、関係各所との調整が必要だったからだ。「ただの屋根にそこまでしなくても」とも言われそうだが、私は社員が気持ちよく働ける環境をつくることには妥協しない。前述の朝食も、多少コストがかさんでも、社員が喜んでくれるのなら安いものだ。だから、可能な範囲でバージョンアップしろと常に指示をしている。

 社員の言う事をすべて聞こうというのではない。そんな経営ができるはずもない。しかし、伊藤忠は単体の社員数が4000人超。三菱商事や三井物産より約3割以上も少ない。だから、社員1人あたりの生産性を上げることが必要不可欠なのである。

 こうした事情があるから、社員が効率よく働けるようにサポートすることを惜しむべきではない。これからも、社員の生産性向上につながる職場環境の整備には、とことんこだわる。できる限りの努力はする。経営陣がここまでがんばるのだから、社員たちには働きぶりで返してもらいたい。

 先に述べたように、総合商社の社員の給与水準は高いと言われている。それも学生の就職人気ランキングで上位に並ぶ理由の1つなのだが、社員たち、特に若い人たちには「給料に見合うだけの働きをしているか」ということを、常に自問自答してもらいたい。「商社の常識、社会の非常識」という有り様では、お客さまに満足していただける機能を提供することなどできない。