過去最大6000億円の投資をした
中国・CITICとの提携の勝算
「本当に大丈夫なのか」と言った人もいたし、「やりますねぇ」と言った人もいた。しかし私たちには、「シナジーの最大化を追求できる」という確信があった。中国中信集団(CITIC)への巨額投資をめぐってのことだ。
CITICは、1979年に経済の改革開放をリードする企業として、中国政府が主導して設立した。中国首位の信託会社や証券会社、同7位の銀行、また世界首位のアルミホイール製造、中国首位の建材製造機器、特殊鋼製造などのメーカー、さらに建設や資源、不動産、ITなどの企業を抱える、同国最大のコングロマリットだ。2015年度決算では、売上高が円換算で約5兆4600億円、連結純利益は約5500億円、連結総資産は約89兆円で、従業員数は約13万人を数える。
伊藤忠は、タイを本拠とするアジア有数の大手コングロマリット、チャロン・ポカパングループ(CPG)と共同で、CITICへの投資を行った。伊藤忠とCPGは、14年7月に戦略的業務・資本提携を締結した。その上で15年1月には両社が50%ずつ出資する共同出資会社が約1兆2000億円を投じ、株式の約20%を取得してCITICに資本参加した。
つまり伊藤忠の投資額は6000億円で、これは1案件への投資額としては伊藤忠史上最大規模のものだった。また自己資本の4分の1に相当する額でもあり、金額の大きさだけで見ると「本当に大丈夫なのか」と心配されるのも無理もない。
これからの総合商社は、それぞれの個性で勝負する必要がある。資源ビジネスで大儲けできる時代が去ったからだ。そこでは自らが強みを持つ「土俵」で、「これで勝負する」というビジネスモデルを早期に創りあげた者が勝利するだろう。
伊藤忠が軸足を置いていく領域は、業界最強を誇る生活消費関連分野だ。「衣・食・住」で稼いでいくとすれば、市場規模がシュリンクする国内ではなく、約14億の人口を抱える中国や、成長著しい東南アジアに活路を求めるのは当然のことである。
CITICへの出資により、目先的には16年度決算で約700億円の取り込み利益が見込めるようになる。そして、CITICとの提携で、なによりも大きなメリットがあったと実感させられるのが「情報」だ。彼らは、あらゆる産業にネットワークを広げるコングロマリットであるが故に、私たちが入手できる情報とはまったく異なる、質の高い情報を持っている。いわゆる「筋のよい情報」がリアルタイムで入手できるようになった。
表立って目には見えないことだが、彼らの独自情報を精査することで経済政策の方向性を正確につかめ、案件選別の精度も格段に上がっている。またCITICの株主になったことによる信用で、他の中国系企業から軽視されたり警戒されたりすることがなくなった。中国での知名度も上がり、ビジネスが円滑に進められるようになってきている。