人はなぜ「リピート」するのか?

森岡 どのようにリピーターを生み出すかは課題ですね。そこで「人はなぜリピートするのか」ということを、いろいろ分析したんです。具体的には「リピートしてもらうには、ゲストの満足度がどこまで必要なのか」ということです。

 普通は、その作品なりコンテンツがよいから、再度手を伸ばすと考えますよね。テーマパークも、一回来て楽しかったから、もう一回来る。一般的にはみんなこれを信じています。

 ただ、数学的に分析していると「今欲しいか、欲しくないか」が大切ということがわかってきたんですよ。

佐渡島 へえ!

森岡 たとえば、あるテーマパークに行ったとき、4時間半待ちのアトラクションに2つ並んで、結局1日で2つしか乗れなかったことがあったとします。そんな目にあったら、「二度と行くか!」と思うかもしれないですよね。しかし、2年も経たずにまた行っている、なんてことがある。

 これは、人の購買は、一回一回のトライアルで区切られているからなんです。必要なのはそのときのトライアルのモチベーションだと考えられるのです。

 これをマンガに置き換えて考えると、次読む作品が面白そうじゃなかったら買わないという決断になるでしょう。または、今欲しくなければ買わないということになります。じゃあ、なんで連続してマンガを1巻から23巻まで買ってるのかっていうと、実はトライアルが完結していないからなんですよね。「まだ買い切ってない」わけ。この買い切っていない感覚が、一回一回のトライアルをちゃんと実際のお金に見合う行動を起こすわけです。

 つまり、購買行動を起こさせるには、「ある一定の水準を振り切るだけの強いトライアルの衝動を作れるか」と、「買い切らないように仕組み作るか」のどちらかだと思うんですよ。

佐渡島 それ、むちゃくちゃ面白いですね!

【森岡×佐渡島】人は満足するからリピーターになるのではない【最終回】『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』(森岡毅/KADOKAWA)

人は確認したい気持ちとか、知りたい気持ちが強いので新しい何かがあると、自分の目で確認したい衝動にかられる。だから、「ハロウィーン・ホラー・ナイト」がすごく成功したと思っているんですよ。「本当にゾンビ怖いの?」って、みんな確認したがった。

森岡 そうそう。テーマパークに行きたいと思うときって、どういうときなのかというと、ホルモンが正常なときであれば、家の中に引きこもってムシャクシャしたときとかなんですよ。

 刺激を求めて、人との出会いを求めて、好奇心や欲求を求めて。とりあえず、人はどこかに行きたい衝動にかられる。山でもいいかもしれない、海でもいいかもしれない、ディスコでもいいかもしれない、クラブ回りをするのがいいのかもしれない。そのとき、人はサイコロを振っているわけですよ。「どこに行こうかな……」と。で、そのサイコロの目に「テーマパーク」と出る確率をどうやって高めていくかが僕らの仕事だと思うんです。

佐渡島 そうですよね。

森岡 人は勝手にサイコロを振っているんですよ。サイコロの中に、USJという目をどうやって置いていくかがポイント。

 で、これをマンガに置き換えて考えてみますね。たとえば、思い切り号泣したいときとか、感動したいときとかに、人はサイコロを振っているんじゃないかと思うんです。で、『宇宙兄弟』がサイコロの目を大きく押さえていればOKと。

佐渡島 そもそもどういうサイコロになっているかも気になりますね。

森岡 サイコロの全貌を掴むということは、自分のブランドをどうやって押さえるのかにつながりますね。私が今のところ、まだ成功していないのは、サイコロを振る頻度自体を自分のアクションで大きく変えるということです。

佐渡島 まったくもって、私が新しい作品を売ることに苦労しているのとつながっていますね。書店に行くと、9割くらいが「役立つ本」じゃないですか。

森岡 参考書とかね。

佐渡島 そう、ビジネス書もそうじゃないですか。何かを必要と思うことは、ある種、サイコロの目が決まっているじゃないですか。

森岡 そうそう。固定事項ですね。

佐渡島 そうなんですよね。で、『ドラゴン桜』とか、『宇宙兄弟』って、「役立ちの枠でも読めますよ」という宣伝の仕方しているんですよ。

森岡 なるほど、なるほど。

佐渡島 だから、「参考書を買うんだったら、先にこっち買ったほうが、やる気が出て、いいですよ」とか、「『宇宙兄弟』だと、「理系に興味持ちますよ」とか、「モチベーション上がりますよ」とかの見せ方もしている。

 でも、『テンプリズム』というファンタジーマンガは、「純粋に物語を楽しみたい」って思っているときしか買わないんですよ。さらに言うと、大人にファンタジーを読ませるのは難しい。

森岡 そうなんですよね。

佐渡島 みんなが読んでるものを読みたいとか、売れているものを知りたいという思いは、強いんだけれど、一番はじめのサイコロが最も振られている回数が少ないのがファンタジーだと思っているんですよ。

森岡 なるほどね。そうかもしれませんね。ファンタジーを求めているときは、現実逃避したいときでしょうね、夢の世界に。ストレスが溜まったときに、本当にファンタジーじゃなければならないのかという選択肢もあるわけで。

佐渡島 そうですね。

森岡 読者はファンタジーだけのためだけに、サイコロは振ってないんじゃないのかなっていうのはちょっと思っています。ストレスが溜まったときに、現実から頭をどこかに連れ去ってもらいたいときに振られるサイコロがあって。小説かもしれないし、純粋なファンタジーかもしれないし、マンガかもしれない。

佐渡島 はい、そこが難しくて。

森岡「エンターテインメントとしてのコンテンツが読みたい」っていうところで、一回サイコロを振られてるような気がしますね。

佐渡島 そうなんですよね。で、そのサイコロを振る人の数も今、たぶん減っていて。

森岡 そうですね。

佐渡島 「何のマンガを読もう」っていうふうにサイコロを振ってる人も極端に減ってしまっている。そのせいで、マンガが「腐女子向け」とか言われてしまう。固定でサイコロを振っている人だけのための業界になってしまっている。

 ビジネスをやっていくだけだったら、しっかりサイコロを振ってくれる人のところだけでやっていけばいい。しかし、マンガという手段を使って、世界中の人に読んでもらいたいと思ってるわけだから、マンガっていうサイコロを振っている人のためだけに表現を狭めるわけにはいかないとも思いますね。