日本のバッグブランドとして、世界から高い評価を受けているバルコス。ファッション業界にありながら、今も本社を鳥取県倉吉市に置いて、イタリア・フィレンツェを拠点に展開している。今、海外では日本のバッグといえばバルコスと言われるまでに飛躍した経営哲学を、世界中から商談相手が次々に訪れる下目黒のショールームで代表の山本敬氏に聞いた。
フィレンツェにグッチがある
倉吉にバルコスがあってもいいじゃないか
――倉吉で自社ブランドを立ち上げ、今や日本全国の大手百貨店で海外ブランドと肩を並べているバルコスですが、倉吉市に本社を置く理由は?
山本 大学進学で上京して、そのまま東京で仕事をしている時から、大都市一極集中ということに、なんか違うな、と感じていました。最初に住んだ中野区の人口が鳥取県の人口より多いって、おかしいだろって(笑)。
人が多いから仕事がある、ということに、なんとなくですが違和感があったんです。東京と大阪だけに人口が集中して溢れかえっている。その中にいてもクリエイティブじゃないと思うようになって。それでひとりで商売を始めようと、母が住む鳥取の倉吉に、いわゆるUターンしました。
東京で雑誌のカメラマンをしていたので、ファッションに関わろうと思ったわけですが、ハンドバッグは大手がなかったので、これならクリエイティブな道が開けると決断したんです。初めは大変でしたよ。20年前ですが、銀行からは「倉吉でファッションなんかできるわけがない」って。「バカか」ってホントにみんなに笑われましたよ。地方に工場や小売店はあっても、ファッションブランドはなかったですから。バルコスが初めてです。
それでも倉吉でやりたかったのは、僕は「東京と田舎」、それだけじゃ良くないと思っているからです。ヨーロッパは自国の各地に都市が点在しています。大都市ってそんなになくて、それぞれが小規模。たとえばバルコスの子会社があるフィレンツェは、人口約35万人です。
こんなに有名なのに人口は少ない。観光客が年間約300万人訪れる街で、ファッション、農業、観光で成り立っています。世界遺産があるのですが、それなら日本にもある。実は産業としても、ファッションはもちろん、キャンティワインなど世界に認められている農業がある街なんですよ。
名だたるデザイナーがフィレンツェの出身で、フェラガモはローマでもミラノでもなく、フィレンツェで起業しました。結果的にフィレンツェがファッションの街になったのであって、真面目にやっていいものを作り続けるのには、本社の場所は大都市じゃなくても、どこでもいいということです。