アイデアマン社長

「うちの特徴は無料の大盛りとおかわりだけではありません。山形豚を使っていること、そして、アイデアマンの社長がいることも特徴です」

 新丸子のハリソン・フォードは笑いながら、そう言った。同店では普通のとんかつの他、銘柄肉の山形豚を使ったそれがある。値段は普通の豚よりも300円高い。山形豚について、うんちくはいろいろあるだろうが、食べてみたら、わりとあっさりした味がした。そして、肉質はやわらかい。わたしは普通の豚肉でも充分と感じたが、一度でも山形豚を選んだ人はなかなか普通豚に戻ることができないらしい。山形豚にはそれほど魅力があるのだ。

 豚と並んでの特徴と書いては社長に失礼かもしれないが、もうひとつのそれは創業社長の大嶋昭がチャーミングなこと。わたしは会ってはいない。しかし、店名を付ける際のセンスが他人とは違っている。

 大嶋は新丸子の「ひげ虎」以外に数店のチェーンを持っている。日吉には「とらひげ」、大倉山には「とら吉」。いずれの店も店名に「とら」が付く。なぜかといえば、大嶋が昭和13年生まれの寅年だからだ。とんかつとも洋食ともまったく関係なく、自分の生まれた年を大事にしている。さらに、「ひげ虎」の店内には虎グッズが多数、飾られていた。彼のチェーンは、虎が豚や牛や鶏を売る店なのである(そういえば、虎は肉食だ)。

 各店とも出しているメニューは少しずつ違う。ただし、「たくさん食べる人が喜ぶ店」という点は同じだ。新丸子のハリソン・フォードはこう総括した。

「日吉には慶應があるし、新丸子には日本医大があったんです。社長が作った店は学生街にある。学生さんに肉とご飯をたくさん食べてもらおうと思って作ったんじゃないかな」