マッキンゼーで生きていくとは?

瀧本 そこで測られているのは「どれだけ知的な刺激を求めるか」なんだと思います。もしもお金がほしいんだったら、マッキンゼーよりも投資銀行に行ったほうがいい。

 マッキンゼーをキャリアステップの踏み台と見なしている人は、結局コンサルタントとして大成しない。コンサルタントに向いている人、特にマッキンゼーに向いている人は「知的な刺激」に飢えている人ですよ。

山梨 そうですね。

瀧本 そして山梨さんが25年もマッキンゼーの第一線を走ってこられた原動力は、この仕事や会社に向いていたという以前に、知的な刺激に飢えていたからだと思います。それは最新刊の『いい努力』を読むとよくわかりますね。入社するときだけでなく、25年間ずっと飢えていた。

山梨 マッキンゼーという会社で生きていくことについては、後輩たちに質問されたとき、よくスポーツにたとえて説明していました。

 たとえば陸上をやっていた人が、マッキンゼーという野球チームに移籍してきた。ドラフトで指名されたり、フリーエージェント制度を行使して入団したり、みんな自他ともに認める期待の新戦力ですよ。ところが、野球のルールをひとつも知らない。コンサルティングの会社に入ってきたのに、「コンサルってなに?」という状態からはじまる。

瀧本 スタートはそうですよね。

山梨 それで右も左もわからないから、先輩に言われたことだけをやる。僕もそうでした。ところが、「まずは来た球を打て」と教えられても当たらない。これって運動神経の問題じゃないんですよ。バットの振り方さえ知らないわけですから。それで延々と素振りをくり返して、ようやく当たるようになる。たのしいですよ、本人は。「当たるようになった」という実感があるわけだから。

 でも、こんなものはぜんぜん野球の本質じゃない。だって、ボールを打つだけじゃダメですよね。その場にじっとしていたらアウト。左に走ってもアウト。右の、ファーストベース方向に走らなきゃいけない。

瀧本 (笑)。

山梨 いや、笑っちゃいますが、そんなことも知らない状態なんですよ。

瀧本 ええ、そうですね。