しかし一方でどれだけ成功しても、下品な成金として、エスタブリッシュメントからは決してリスペクトされることはなかった。実際、ホワイトハウス記者クラブが主催した夕食会では、議員、映画スター、記者たち2500名の前で、オバマ大統領からジョークのネタにされ、赤っ恥をかかされている。

 だからこそトランプの行動原理は、「エスタブリッシュメントへの憧れと憎悪」にあるだろう。彼が作るホテルやマンションが金ピカなのも、モデルや女優ばかりと結婚を繰り返すのも、憧憬ゆえのことだろうし、大統領選に出馬したのも憧憬の裏返し、つまり憎悪ゆえではなかったかと思う。それ以外の理由が思いつかない。

 そもそも一般的に成功した事業家は、政治家にはならないものだ。仮に今回の大統領選にウォーレン・バフェットが出馬していたら、当選していた可能性は高い。ジョブズが生きていて立候補していたら、大統領になれた可能性も高いだろう。しかしバフェットもジョブズも、自分たちが政治家になろうとはまったく考えたこともないはずだ。事業家と政治家は価値観が違う。事業家の価値観はあくまでビジネスなのだし、ビジネスで成功した人間が政治家にならなければならない理由もあまりない。なのにトランプは、(政治経験がまったくないのに)大統領になろうとした。その理由がどうにも理解できなかったのだが、エスタブリッシュメントへの憎悪であるなら理解できる。

 また、トランプの祖父はドイツからの移民だ。移民の孫のトランプが移民排斥を主張することは矛盾しているように思うかもしれないが、移民の家庭に生まれ育ったからこそ、不法移民に対する嫌悪感を持っていたことも考えられる。市民権を得た正規移民にとって、不法移民は敵なのだ。これは、成功した黒人が、貧困から抜け出せない黒人たちを見下すことがあるのに似ている。

 そして、若い頃に低所得者向けのアパートを訪問して家賃を回収していたことで、彼らの生活ぶりも彼らのコミュニティの空気感も、理解できていただろう。そして、そこをターゲットにすることに「勝機」があることも理解できたのだろう。

 つまり、エスタブリッシュメントが推し進めるグローバリズムや、知的エリートが推進するポリティカルコレクトという流れから「取り残された人たち(=The Rest of Us)」、それが低所得の白人であり、正規移民であり、トランプ自身だった。これが今回の「トランプ勝利の正体」だと思う。