「今の親分さん(六代目山口組組長・司忍氏)は、もともと名古屋の親分さんと聞いてます。それでも神戸のためにようやってくれてはると思います」

 山口組総本部近くに住むという小学生の子を持つ40代主婦は、このように六代目山口組組長・司忍氏にエールを送る。それは暴力団を信奉するというのではなく、地元で尽力する政治家や財界人、活躍するスポーツ選手や芸能人への敬意に近いものである。

 ヤクザと共生する町・神戸では、公衆浴場に行けば全身刺青の、ひと目でそれとわかる男性が入浴している場面に出くわすことも珍しくはない。そうした入浴中のヤクザに気軽に声を掛ける市民もいるくらいだ。

「お兄さん、ごっついの背負ってるな。山口組さん、それとも神戸(神戸山口組)さん?大変な時期やろうけど頑張ってや!」

 こう声掛けされた刺青姿の男性は黙って会釈を返す。その様子はまるでスポーツ選手がファンに会釈する姿を彷彿とさせるものがある。

 さて昨夏、山口組では、一部関係団体が脱会し「神戸山口組」を旗揚げしたが、この神戸山口組には、山口組のハロウィン実施時から采配を振るっていた“ハロウィン組長”として知られる大物幹部も参加した。捜査関係者の1人が明かす。

「実は去年、山口組はハロウィンを行うつもりでいた。ところが“ハロウィン組長”が抜けて、実施しようにもその手順がわからない。それで実施を見送ったというわけ」

 突然の分裂劇で、“ハロウィン組長”も山口組に残る者たちに、その実施手順を「引き継ぎ」する余裕がなかったのだろう。

市民には理解し得ない
「ハロウィン開催もひと苦労」

 菓子を調達し、これを袋詰めして、子どもたちに配るだけのハロウィン実施に、一体どんな“手順”があるのか読者の中には疑問に思う向きもあるかもしれない。しかし、山口組がハロウィンを実施するのは、一般市民が考える以上に大変なことなのだ。今やヤクザは、暴力団対策法や暴力団排除条例実施の影響により、活動範囲は大幅に狭められている。

 よく知られたところでは銀行口座を開設できない。不動産契約が結べない、宅配便を発送するにも、「組事務所」への荷物は断られるといったもののほか、刺青を入れるにしても「組の代紋を彫ると彫師を事情聴取する」(前出・捜査関係者)という徹底ぶりだ。

 そうしたなかで、「山口組」として小売店にハロウィンで配る菓子を大量に注文することは極めて難しい。販売した側が警察から事情聴取を受けかねないからだ。販売側も丁重に断るだろう。昨年、山口組がハロウィン実施を断念したのは、子どもたちに配る菓子の確保に自信が持てなかったという事情が大きかったのかもしれない。

「またお家(山口組総本部)でハロウィンをやってほしい。仮装して行きたいわ。“Trick or Treat!”て声かけたら、お兄さんたち“Happy Halloween!”て返してくれるんよ」

 冒頭部で紹介した小学5年生・ヒナちゃんが屈託のない笑顔で言う。

 だがヒナちゃんが来年、山口組総本部に仮装してハロウィンに行けるかどうかは微妙な情勢だ。兵庫県警関係者、大阪府警関係者によると、「そろそろ関西も忙しくなってくるのではないか」というのがもっぱらの声だからだ。

 というのも今年に入ってから、東京では山口組、神戸山口組の“代理戦争”ともいえる小競り合いが勃発している。

 分裂した2組織は、いよいよ地元・関西で本格的に競り合うことになるかもしれない。今回、兵庫県警は山口組のハロウィン実施を許してしまったが、まさか市民を巻き込んだ抗争をも許してしまうというようなことはないだろう。

 時代は確実に移り変わり、平成18(2006)年末には構成員、準構成員等あわせて3万9700人いた山口組だが、平成27(2015)年末には、その数は1万4100人にまで激減している(警察庁調べ)。暴力団への風当たりが強い今、かつて市民から頼りにされた“山口組さん”は衰退に直面している。