AFP=時事

ノーベル賞授賞式を「欠席する」との意向を見せたボブ・ディランの声明が話題を呼んでいるが、授賞式のみならず「ノーベル賞受賞そのものを拒否」した哲学者がいる。サルトルだ。なぜサルトルは拒否したのか?2015年に公開された「ノーベル賞受賞拒否」、その理由とは?

歴史上唯一
「ノーベル文学賞受賞」を拒否したサルトル

 サルトルは小説「嘔吐」で高い評価を受け、1964年にノーベル文学賞にノミネートされたのだが、ノーベル文学賞受賞を拒否している。ノーベル文学賞受賞を拒否した人物はこれまでサルトルただ一人であり、もちろん日本円にしておよそ1億円弱程といわれる賞金も手にしていない。どういう思考回路であれば1億円をポンと拒否できるのだろうか……。1億あればマクラーレン一括で買えるのに…!!

フランスの最高勲章も拒否したサルトル

 またサルトルは1945年にフランスの最高勲章といわれているレジオンドヌール勲章受章も拒否しており、筋金入の「賞嫌い」のようである。

 尚、「ノーベル賞授賞」に関する選考内容の過程は50年間の守秘義務があるため、長年サルトルがノーベル賞受賞を辞退した理由は、明確にはなっていなかったのだが2015年にサルトルが送った声明の内容が公開されている。

 声明を簡単に要約すると「ノーベル賞が自分の名誉を絶頂に押し上げてしまうとしたら、自分の自由と力をつかって、『自分自身で目指すべき絶頂』に達することができなくなる」「生きてるうちに神聖化されて伝説になりたくない」という主旨のものであった。これだけ聞くと若干中二病くさいと思われる方もいるかもしれないが、これこそサルトル流の美学であり、哲学なのだ。単なる思いつきではなく断るべき理由あっての辞退であったのだ。まさしく「自由」にこだわったサルトルの思想を体現した形でのノーベル賞受賞辞退といえる。