戦後の米国大統領選では、ケネディ暗殺後の同情票もあってジョンソン副大統領が当選した1964年とやはり副大統領だったブッシュ(父)が当選した1988年を除き、民主、共和両党が政権交代を繰り返している。今回使用したCNNの出口調査の別項目でも、投票した者のうち、「米国が間違った方向をたどっている」と考えている者は、前回2008年大統領選の52%から62%へと増加しているのである。

 クリントン候補の不人気やトランプ候補の過激な発言という個人の資質にもとづく要因は、マスコミや有識者が騒ぐほどの影響はなかったのではなかろうか。そうでなければ、トランプ候補の反移民の暴言にもかかわらず②のようにヒスパニックやアジア系の投票がトランプにシフトした理由が分からない。視聴率や広告料が稼げれば大した根拠もなく上げたり下げたりするメディアの習性に全世界が翻弄されただけという感じがする。

 政策論争と言うよりは相互の個人攻撃に終始し、また、それをメディアが煽るという文明国で行われているとは信じがたい醜い今回の米国大統領選を観察していて、こんな空疎な騒ぎの中で世界で最も大きな権力をもつ人間が決まるなんてと文明社会そのものに不安を感じた人びとは多かろう。しかし、米国大統領の行政権限はそれほど大きな意味がないから、こんな恥ずかしい選挙を長い間続けていても大丈夫と米国人は考えているのかもしれない。

 この点について、米国政治の古典である『アメリカのデモクラシー』(1835年)の中でトクヴィルはとっくにこう指摘している。「合衆国では、執行権の活動が鈍っても不都合はない。その活動はもともと弱く、限られているからである。アメリカでは、大統領は国家の事務に十分大きな影響を及ぼすが、しかしこれを指図してはいない。圧倒的な力は国民の代表全体にある。だからこそ、アメリカでは、執行権の長を選挙制にしても政治の安定をそれほど著しく害することがないのである」(第1巻第1部第8章)。

個別要因として効いたのは
「ガラスの天井」と「本音トーク」だけ?

 全般に影響を与えた政権交代必然要因に加えて、個別要因として、トランプ有利に働いたものがあるとすれば、図2の属性別変化の中で、対立が見られ、かつ一方に片寄っている場合であろう。すなわち、男女別で、男性だけが一方的にトランプ・シフトしたケースと、学歴別で、大卒未満のトランプ・シフトが大卒以上のクリントン・シフトを大きく上回ったケースとがそれに当たる。

 女性だから不利だったという前者の要因はトランプ候補の勝因というよりクリントン候補の敗因である。トランプ候補の低学歴者支持は、まさにトランプ候補が選挙戦中に繰り返していた、良く言えば、建前でなく本音でしゃべる率直な物言い、悪く言えば下品な暴言の成果といえよう。