『プロフェッショナル仕事の流儀』(NHK)の企画「この夏、一流のプロの弟子になってみる!」で10代の若者が弟子入りしたのが、株式会社コルクの佐渡島庸平氏だ。

 編集者として、『宇宙兄弟』(小山宙哉)や『インベスターZ』(三田紀房)などの大人気コミックを世に送り出した彼は、新人に何を伝えているのか――。『ぼくらの仮説が世界をつくる』(ダイヤモンド社)から、佐渡島氏が考える“新人の育て方”についてご紹介しよう。

(記事編集:佐藤智、写真:塩谷淳)

努力こそが伸びる基盤になる

――佐渡島氏が考える「伸びる人材」とは、どんな素養がある人なのか?

 モーニング編集部にいるときに、たくさんの新人マンガ家と出会いました。

佐渡島庸平(さどしま・ようへい) 1979年生まれ。中学時代を南アフリカ共和国で過ごし、灘高校に進学。2002年に東京大学文学部を卒業後、講談社に入社し、モーニング編集部で井上雄彦「バガボンド」、安野モヨコ「さくらん」のサブ担当を務める。03年に立ち上げた三田紀房「ドラゴン桜」は600万部のセールスを記録。小山宙哉『宇宙兄弟』も累計1600万部超のメガヒットに育て上げ、TVアニメ、映画実写化を実現する。伊坂幸太郎「モダンタイムス」、平野啓一郎「空白を満たしなさい」など小説連載も担当。12年10月、講談社を退社し、作家エージェント会社、コルクを創業

「磨けば光りそうだな」と感じると「新しい作品を、下書きでいいのですぐにでも持ってきてください」と伝えていました。しかし、本当に下書きを持ってきたのは、数人しかいなかったのです。そのうちの一人が、小山宙哉さんです。

 週刊連載をやっているプロのマンガ家は、当然ながら毎週新しい作品を生み出します。ときには大幅な直しをしたりして、1週間の物語を作るために40ページ、50ページ分のストーリーを作ることもあります。さらに、できた物語にペン入れをする。ストーリーを作る技術も、絵を描く技術も、どんどん向上していきます。ベテランでもそれだけの努力をしているのです。

 ただ、「努力すること」は本当に難しいことです。1日、2日のことであれば、根性で乗り切れますが、長期間は無理でしょう。人間というのはとにかくサボる動物だからです。だから、サボらないように工夫をすること、努力を続けるための仕組みを作ることが、大切になってきます。

努力を続けられる「仕組み」をつくれ

――実際に「努力しよう」と思いつつも、挫折した人は多いだろう。努力を継続するにはどうすればいいのだろうか?

 ぼくも、以前はしょっちゅう、「明日こそは頑張る!」を繰り返していました。それがなくなったのは、『ドラゴン桜』の取材を通じて得られた知識のおかげです。

 作中でも紹介しているのですが、「二重目標」という考え方があります。二重目標とは、何かを成し遂げるにあたって「毎日絶対にできる目標」と「理想的な目標」の二つを作るという方法です。

 たとえば、英単語を覚えたいのであれば「一日一回、必ず英単語帳を手に取る」という目標と「毎日10個新しい単語を覚える」という目標を立てます。目標を2つ立てるのです。後者の「10個単語を覚える」という目標を、毎日達成するのは難しいでしょう。何日かやらない日が続いてしまうと、目標自体をなかったことにしたくなります。それに対して「毎日単語帳を手に取る」という目標であれば、努力がほとんどいりません。これであればどんな人であっても継続することができるでしょう。

 この考え方は仕事をするときにも、もちろん使えます。

 ぼくは「一日一回は必ず自分が担当している作品を考える」という目標「作品を多くの人に広げたり、作品をおもしろくしたりするアイデアを考える」という二つの目標を立てています。「『宇宙兄弟』、今から何ができるかな?」「『オチビサン』の魅力は、どうすれば伝わるかな?」「『テンプリズム』のワクワクって、どうやれば伝わるのかな?」と作品のことを考えるわけです。

自分を信じ続けるパワーを持つ

 最後は「自分を信じる力」も重要です。自分の意志というものを過信してはいけませんが、自分を信じる姿勢は維持し続ける必要があるのです。

 世の中の人は「新しいもの」に、あまり反応しません。世の中の人が反応するのは、既存のものから少しスライドした「ちょっと新しいもの」だからです。よって、「新しいもの」を描く作家の作品がすぐに世の中に受け入れられることは、めったにないのです。

 ぼくの感覚では、3年続ければ、徐々に世の中から受け入れられてきます。「あれ?今までと世の中の反応が違うぞ」という反応が出てきて、もう少し頑張れる。そして、大爆発するのは、5年目くらいです。『ドラゴン桜』も『宇宙兄弟』も、どちらも3年ほど経った頃から、やっとヒットの兆しが出てきました。

多くの人は、だいたい1年ほど結果が出ないと、そこで諦めてしまいます。2年頑張れる人もかなり少ない。3年、自分を信じて、努力し続けることができる人はほとんどいません。

 編集者の仕事の重要なところは、誰も信じていない才能を、本人と一緒に信じることです。世間は結果や数字だけを見て、人を信じるかどうかを決めます。編集者は、自分の経験をもとにその才能を信じます。

「やっぱり自分には才能がない」と自分で勝手に決めつけてしまって、消えてしまった人がたくさんいます。本当はすごい才能があるのに、諦めてしまうのは本当にもったいないことです。

自分を信じ切れる作家、作家を信じ続けられる編集者の双方がコンビであることで、ヒット作は生まれるのです。