菅改造内閣の下で、社会保障・税一体改革が始まる。これに対する一般国民の理解は、「国民が安心できる年金・介護・医療の充実の内容を示して、それに必要な財源を計算し、消費税率の引き上げを提示すること」というものであろう。

 現在消費税収を充てるべき分野として考えられている、基礎年金、高齢者医療、介護の3分野の国庫負担(国費)と国の消費税収との間には10兆円の「隙間」が存在していることが、政府によってたびたび説明されているので、単純にこの隙間を埋めるもの、と受け止めている向きもある。

 しかし、論点はそれだけにとどまらない。今日われわれの抱えている課題はもっと広範で、検討も幅広いものにしていく必要がある。ここでは、その課題を整理してみたい。

社会保障の拡充と
財政再建の整合性

 第1に、社会保障の中身の拡充と財政再建という2つの課題の整合性をどう取っていくのかという点である。わかりやすく言えば、社会保障の足らざるところを消費税引き上げで補ったのでは、なんら財政再建には結びつかないのではないか、という点である。

 財政再建というのはわかりにくい概念である。毎年発生する大規模な赤字を縮小していくことと、これまで積み上げてきた借金を返すこととの間には大きな差がある。そこで政府は、財政再建のメルクマールとして、「毎年の政策的な経費を、その年度の税収入で賄うことが可能になる」というプライマリーバランスを使用している。何とか赤字が発散しないという意味での最低限の目標である。

 菅政権は、2015年のプライマリー赤字の半減と2020年までのプライマリー黒字を国際公約している。内閣府の最新の試算によると、目標達成には、慎重シナリオ(経済成長1%台半ば)で15年には5兆円程度不足し、20年には23兆円不足するという。このことと、上述した社会保障3分野の国費と消費税収(国の取り分)の隙間である10兆円を埋めるという話と、どのような関係にあるのか、未だ明快な説明はなされていない。