組織のパフォーマンスを最大限に上げてこそ、優れたリーダーと言える。しかし言うまでもなく、これはとても難しい。かつて吉野家にいた、2人の「伝説のリーダー」たちから安部会長が学んだリーダーシップとは?(吉野家ホールディングス会長 安部修仁、取材・構成/フリージャーナリスト 室谷明津子)

日本の会社員は
「評論家」になりがち

 吉野家の実質的な創業者である松田瑞穂(オヤジ)と、倒産からの再生を率いた弁護士の増岡章三先生。2人の伝説的リーダーから私が大いに影響されたことは、前回述べた通りです。今回は、私が2人から学んだリーダーシップを、実際に部下を持ったときにどう生かしたかをお話しましょう。

リーダーシップにはスキルも必要。しかし、決定的に大切なのは「自らが一番やっているか」ーー。言動が一致しているリーダーには、部下たちが必ずついていく(写真はイメージです)

 2人がリーダーとして優れていたのは、組織のパフォーマンスを最大限に上げた点です。これは当然のことに思えますが、実は非常に難しい。

 日本の会社員はともすると「評論家」になりがちです。居酒屋で「新しい部長はこういうところがいけない」などと、批判する会話を聞いたことがあるでしょう。ふだんの生活の中でも、人々はしょっちゅう野球やサッカーの試合で監督の采配を批判します。ある意味、独特の国民性を持っていて、考える力があるともいえますが、放っておくと評論家集団になる。

 ここでいう評論家とは、仕事を「自分ごと」にしていない人たち。他人がやっていることを外から眺めている人たちです。オヤジや増岡先生がリーダーのころには、自分の役割に徹して「吉野家のためにがんばろう」「あのリーダーを支えよう」と思って働く人が大勢いた。そうやって主体的に動く部下を何人作れるかが、リーダーシップをはかる物差しだと思います。

 ポイントは「何のため、誰のため」という役割論を組織の中で徹底させることです。特にオヤジにはこの意識が強烈にあって、あらゆる場面で叩き込まれました。口を酸っぱくして言っていたのは、吉野家の事業活動は「店に食べに来たお客さんが、『うまい、やすい、はやい』を喜んで帰っていただくことのためにある」ということです。

「うまい、やすい、はやい」を実現するためには、店舗で提供する商品とサービスすべてに焦点を合わせる必要があります。そして、そのためにみんなが動くという意識を持つ。オヤジからは、「トップが努力するのは『自分の名誉や保身』のためではなく、アルバイトが働くのは単なる『小遣い稼ぎ』のためではない。そこを勘違いしてはいけない」ということを繰り返し教えられ、私自身も社長時代は常に念頭に置いていました。