そして、もう1つの問題が、トランプ新大統領が登場する米国だ。日本がこれまで、日露外交で「自立性」を持てなかったことはよく知られるようになった。日本が「4島返還」の原則にこだわり続けて、日ソ共同宣言で明記されたはずの2島返還すら動けなかったのは、背後には、「択捉、国後を放棄するなら、沖縄は返さない」という、いわゆる「ダレスの恫喝」があったためとされる。その後、日ソ・日露関係を日本が改善に動くことは、事実上、米国に許されていなかった。

 しかし、トランプ新大統領の登場は、日露関係を劇的に変える可能性がある。なにしろ米国の大統領になる人物が「日本の核武装」まで言及したのは初めてだ。ある意味、戦後初めて「日本の完全独立」(米軍基地撤退、日本の自主防衛)を容認する大統領が誕生する可能性があるのだ(第145回)。当然、日露関係においても、「どんどんやれ」という考えである可能性が高いということになる。

「トランプタワー」での安倍・トランプ会談は、ゴルフバックを渡して雑談して人間関係を築いたように言われるが、安倍首相が日露首脳会談について、「好きにやっていい」というトランプの言質を得た可能性はあるだろう。日露関係は、経済協力に関しては、想像を超えて大胆に進んでいく可能性がある。

 しかし、トランプの外交政策は、現在のところ支離滅裂と言わざるを得ない。「孤立主義」を基本的な考え方としながら、「狂犬」と呼ばれる強硬派・ジェイムズ・マティス退役大将を国防長官に起用し、中東への積極関与の姿勢を見せている。また、「1つの中国」の原則に拘らないとして、公式な外交関係のない台湾の蔡英文総統と電話会談をし、中国を挑発している。孤立したいなら、いろいろなことに関心を持たなければいいのだが、必要以上に攻撃的で、介入するのがお好きなようだ。

 トランプ氏の言動が、確固たる戦略に基づくものか、単なる思い付きかは、現時点ではよくわからない。ただ、単なる思い付きだった場合は、トランプタワーで「好きにしていい」と安倍首相が言質を得ていたとしても、あっという間にひっくり返されることはあり得る。米国が長年警戒してきた日露関係がどういうものかを、トランプ氏が理解した時、どういう態度を示すのか、慎重に見極めないといけないだろう。

(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)