片手で顔を覆う男性写真はイメージです Photo:PIXTA

「男性は人前で泣かない」。この“常識”、実は明治以降の歴史の中で生まれたごく新しい価値観にすぎない。日本語学者・山口仲美氏が、泣き声のオノマトペをたどり、現代にも通じる男女の涙をめぐる価値観について考察する。※本稿は、日本語学者の山口仲美『男が「よよよよよよ」と泣いていた 日本語は感情オノマトペが面白い』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

男は人前で泣くものではないが
女は泣いて弱さをアピール

 テレビを見ていて驚いたことがあります。

 今から28年前の1997年のこと。大手証券会社の社長が、テレビの前で号泣しながら、会社の経営破綻を報告した時のことです。「あれれ、男性も公衆の面前で泣くんだ。しかも、あんなに激しく」と、ショックを受けたのです。

 それまで、心の中では悔し涙に泣き濡れていても、公の場では、ぐっと感情を抑えて対応するのが、日本人男性の態度だと思い込んでいたからです。私ばかりではなく、多くの人がそう感じたことは、号泣の是非についていささか批判的な意見が多かったことからも察せられます。多くの日本人が驚いたのです。

 また、10年余り前の2014年のこと。兵庫県議会の議員が、不正な政務活動費を支出していたことで追及され、記者会見の席で号泣しながら釈明するという事件が起こりました。