なぜ、40年も行列が途絶えないのか?
実は、極めて優秀なインターネット通販企業という側面も小ざさにはある――おそらく、吉祥寺「小ざさ」の本質を知らないマーケターなら、そんな分析結果をしたり顔で示すかもしれない。
けれども、一口、「小ざさ」の幻の羊羹を口にすれば、そんな後付のマーケティング理論など、何の意味もなさないことが明白になるはずだ。
「小ざさ」の羊羹は、圧倒的なのだ。それを口にする人を最大限に幸福にさせる「ハイパーコンテンツ」なのである。これを食べてしまえば、ビジネスモデルは、後からまるで水が合理的な山肌を流れて、川となるように、自然な流れで構築されていったに過ぎないことを思い知るだろう。
1坪で年間3億円売り上げ、40年間行列が途絶えない「小ざさ」のビジネスの秘密は、決して、そのビジネスモデルにあるわけではない。その「羊羹」と「もなか」の圧倒的な旨さに秘密があるのだ。
まるで芸術の領域にまで高めた、その創作の秘密は、『1坪の奇跡 』に詳しく描かれている。
「羊羹をつくり続けていると、感動的な喜びを味わえる瞬間があります。
炭火にかけた銅鍋で羊羹を練っているときに、ほんの一瞬、餡が紫色に輝くのです。
透明感のある、それはそれは美しい輝きで、小豆の“声”のようにも感じられます」(本書16頁より)
ヘラを銅鍋の中で動かす時に、「半紙一枚分の厚さを残す」という境地。それこそが、アップルやティファニーを凌いだ、吉祥寺「小ざさ」の強さの秘密なのだ。